Target1:氷帝学園男子テニス部
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「琹さん!」
背後から声がかかる。パタパタと見えない尻尾を振りながら早歩きで近寄ってくるのは鳳だった。
「珍しく遅いね、どうしたの?」
宍戸達と着替えの時間が被らないように少しだけ教室で時間を潰してから部室に向かうあたしと鉢合う事は本来ならあってはいけない。遅刻になってしまうから。だけど、鳳が遅刻する事は今まで一度も無かったし、真面目な彼が理由無しに遅刻するとも思えなかった。
「日直なんです。今、日誌を持って行く所で……。」
そういう彼の背中を見ると確かにラケットバッグを背負ってはいなかった。まだ教室に戻らないといけないのだろう。んーと少し考える。日誌を持って行くだけなら代わってもいいんだけど。鳳の先生からの評価が下がってしまいそうだから口にするのは止めておいた。
「琹さんはこれから部室に行く所ですか?」
「そうだよ。」
少しだけ雑談を続けていると、ふと気づいた。そういえばいつの間にか鳳はあたしのこと名前で呼ぶようになっていたなぁ。彼にも何か思うところがあったのだろうか。
「いつも、一人なんですか。」
そう問いかける鳳の瞳が爛々と輝いている。まるで、あたしが一人で居ると嬉しいと喜んでいるみたいで、少し、怖い。
喉がカラカラに乾く。ここで答えを間違えてはいけない気がした。ゴクリ、と唾を飲む音は鳳に届いていないだろうか。
「……っ、ひとり、じゃないよ。宍戸達と一緒に居る。部室に行くときは時間ずらしてるから、一人なだけで。」
「そう、ですか。」
鳳がしょぼん、と落ち込む。その様は犬が落ちんでいるみたいで、無いはずの犬耳が見える。
本来なら、本来なら逆の反応をするはずなのに。
本来なら、独りのあたしに同情して、そうでないあたしに喜ぶ筈なのだ。けれど鳳はそうではなくて。怖い。
「琹さん、少し待っていてもらえませんか?俺、日誌出したら部活に行けるので……。」
一緒に行きましょう、と笑う彼は普通だった。
人の良さそうな笑顔の、いつもの優しい鳳。何も変わらない。さっきまでの鳳に抱いていた恐怖心は微塵も感じなかった。
「うん、分かった。ここで待ってる。」
ちょた、と続けたあたしに彼は心底嬉しそうに微笑んで、職員室へと駆けて行った。普段なら、廊下を走る事はしないのに。
ちょたを待つ間、先程の恐怖心が身体を巡る。もしかして、あたしががっくんにした約束は軽率だったのではないか、と。
あたしを欲しいと言った跡部、あたしが好きだと言ったがっくん。それから、あたしと同じがいいと言ったジローちゃん。この三人ははっきりとあたしを独占したいと宣言しているからまだいい。
けれど、何か考え込むような仕草をする宍戸に、あたしが独りである事を喜ぶちょた。更に言うなら、樺地や忍足、滝に日吉はどうなんだろうか。
「お待たせしました、琹さん。」
日誌を届け終わったのか、あたしの隣に並ぶちょたに声をかける。あたしの口は適当な雑談しか紡がなかった。