Target8:男装少女
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明らかに泣き腫れているであろうあたしの顔を、幸村もきよもなんて事のない事のように流して普段通りに接してくれる。古庄寺くんもその二人に倣ってかあたしの意図を汲んでか、気にしないように心がけてはくれているみたいだが、残念ながらそれはぎこちない指先が邪魔をしていた。
彼女の震える指先に申し訳なく思いながらも、幸村ときよの居るこの状況ではあたしの涙の意味を話す訳にもいかない。否、例え古庄寺くんと二人きりだったとしても話せはしないか。だって、それを話すにはこの合宿の目的から話さなければいけないのだから。
ぐっとじゃがいもを握る。ゴツゴツとした感触と鉄の混じった土の匂いが鼻腔を擽った。
それに少し安堵してちらりと視線を持ち上げると、心配そうにこちらを見ていたきよと目が合う。にこりと口角を持ち上げて笑みを貼り付けてみるも、それは彼のお気に召さなかったようできよの眉が困ったようにハの字を描いたものだからいっそのこと言葉で大丈夫だとはっきり伝える為に開いた唇は予定とは違う言葉を繰り出した。
「琹……!」
「跡部?」
荒々しく呼ばれる名前。焦ったように駆けてくる跡部の後ろを追う樺地。
跡部のそんな姿は見た事がなくて、乱雑に掴まれた肩の衝撃に握っていたじゃがいもを取り落としてしまい、魚を焼いていた幸村が思わず口を挟む程だった。
「……跡部、さん。」
「跡部。」
樺地のいつもと同じ淡々とした口調に重ねられた幸村の咎めるようた声。そのどちらに反応したのかは知らないが、跡部は一つ舌を鳴らし片手で顔を覆って大きく息を漏らした。
「……怪我はしてねぇな。」
「大丈夫。心配かけてごめん。」
一体木手は何を言ってくれたんだ。
今度はあたしが鳴りそうになる舌を押さえ込む番だ。
恐らくあたし達が比嘉中と共に温泉に行く交渉をしてくれたのであろうが、これ程までに跡部と木手達の溝を深めてしまっては元も子もない。けれど今、あたしが木手達のフォローをするのは逆効果だ。きっと。
跡部はあたしの頭から爪先まで視線で追って、あたしの言葉に嘘が無いと判断したのか張りつめていた表情を和らげた。それからあたしの泣き腫らした目元を親指でなぞる。それはまるで、もう流れてすらいない涙を拭っているようだった。
「……跡部、夕飯の支度間に合わなくなるから。」
じわじわと周囲からの視線を感じ始め、普段とは違う羞恥心が胸中を染めた。それと同時に胸を占めるのは罪悪感と喜び。
あたしは跡部の手から逃げるように地面に落ちたじゃがいもを拾う。必然的に屈むような姿勢になるあたしを跡部は咎めることはしない。彼は手持ち無沙汰になった手を自身の口元に持っていき、微塵も隠す素振りを見せず大きな溜息を吐いた。
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