Target1:氷帝学園男子テニス部
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「……汐原!」
予鈴が鳴り跡部が立ち去って、もうじき始業のチャイムが鳴るだろうという頃、大きな声を上げて走って来たのは向日だった。急いで来たのか肩で息をする様は怒っているようには思えない。
向日はじっとあたしを見つめて、くしゃりと泣き出しそうな顔をした。
「……わりぃ、汐原。」
息を整えることもせずに向日が口を開く。それは、あの日以来聞くことのなかった彼からの謝罪の言葉だった。いいよ、とそう返そうと思ったのに、あたしの口をついたのは笑い声だった。ハハハと豪快な笑いが止まらない。
あたしの笑い声に眉を寄せて不満気な表情を隠そうともしない彼に言葉を投げかける。それは矢張り、少しだけ笑い声に震えていた。
「もう、いいよ。あたしもごめん。……ねぇ、がっくんの好きなものって、何?」
がっくんの、猫のような大きな目が見開かれる。急な話題転換のせいか、それとも愛称で呼んだからか。そのどちらかは分からない。
だけどがっくんの表情は、確かに破顔していて。嬉しそうにあたしの横に腰を下ろす。そしてそのまま語り始めた。
からあげと、納豆と。それから羽モチーフのアクセサリーと。がっくんが語る"好きなもの"を指折り数えていく。何個か好きなものを語って嬉しそうに言葉を並べるがっくんが、唐突に言葉を止めた。
「あと……。」
言いにくそうに言葉を詰まらせて、うろうろと視線を彷徨わせる。あーとか、うーとか。意味を成さない音を溢す様は、先程の自分を見てるみたいだった。視線を彷徨わせて、頬を染めて。本当に、あたしみたいで。
「……あと、お前。」
「……ん?」
「だから!……琹が、す、好きだって言ってんだよ!」
拗ねたように唇を尖らせて視線を彷徨わせてはいるが、確かに彼の身体はあたしの方を向いていた。真っ直ぐ、あたしに。
真っ赤な顔で、全身で勇気を振り絞ったというような仕草であたしを好きだという。跡部と同じ言葉を貰ったはずなのに、跡部とは少しだけ意味が違った。
あたしを欲しいと言う跡部に、あたしが好きだと言うがっくん。けれどあたしはどちらにも答えるつもりはない。だってあたしは、どちらも好きで、どちらも欲しい。強欲なのだ。
「ごめんね、がっくん。」
あたしの言葉に目に見えて落胆する彼は、じとりと上目がちにあたしを見る。
「あたしもね、がっくんのこと好き。でもがっくんだけのものになるつもりはない。」
あたしはその視線から逃げることをせず、じっと見つめて、先程跡部に伝えた言葉を繰り返す。彼らが"生きている"のだと実感した時から、あたしは、だれか一人の物になるつもりはない。だって、あたしは。
「……みんなが大好きだから。がっくんだけを選ぶことが出来ないんだよね。」
あぁ、なんて。強欲で、我儘で。都合のいい。