Target1:氷帝学園男子テニス部
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あの、ごめんなさい。少し聞きたいことがあるんですけど。」
ありがとう、と受け止めてくれたお礼を添えて宍戸に手を差し出すと、彼は案外躊躇いなくその手を取った。なんだ、優しいじゃないか。
あたしの問い掛けに反応は様々だったが、存外彼らはあたしに対して警戒心はないらしい。ここに居るメンバーの半分、つまり作品に描かれていた氷帝学園男子テニス部主要メンバーの半分が話を聞いてくれるようだ。
「あたしの前に男子が通りませんでした?」
不審者を見るような視線を避けて跡部へと向き直る。彼は話を聞いてくれる側らしい。
彼らがこの廊下にいつから居るのかはわからないが、昌山を見失ったのはほんの一瞬の出来事だった筈だから、あたしが落ちる直前にここを通っていても不自然ではないだろう。だけど、その可能性もゼロに近いなと自嘲した。
目の前にいる筈のない彼らが居るのだ。もしもあたしの願いが叶ったのだとしたら、それは彼らがあたしの元に来たというより、あたしが彼らの元へ来たと考えるべきだと思う。事実、屋上は元々通っていた学校のもので間違いないがこの階段やその周辺の景色に見覚えがないのだから。
「……いや、見てねぇな。」
案の定跡部から返って来た言葉は、あたしの胸中に少しだけ寂しさを滲ませるものだった。こうなるくらいなら"昌山と一緒に"と願い事の頭につけておくべきだったと今更後悔しても遅い。昌山には、元の世界に戻ることがあったら此処での出来事を話してやる事で手を打ってもらおう。所謂土産話というやつだ。
「……そうですか。あ、それと、あたしは汐原琹。よろしくしなくてもいいから存在だけでも知っといて!」
あくまでも中学生であるあたしは、まだ義務教育中であり何処かの学校に通わないといけない。それが何処になるかはあたしの家庭事情がどうなっているがによるが、折角の機会なのだから多少強引にでも彼らには関わっていこうと思う。
例え通う学校が氷帝でなくとも、全国大会くらい大きな大会になればネットで検索すれば日程や開催場所くらい出てくるだろう。何とも便利な世の中になったものである。
「……あ。」
そうだ、スマホ。スマホで昌山に連絡すれば。何でこんな簡単な事気がつかなかったんだ、あたしは。
小さく声を上げたあたしに、大人数の視線が集まる。思わずそれに眉根を寄せて、誤魔化すようにひらりと手を振った。
「ごめん、何でもないです。ありがとう。」
彼らに一つお辞儀をして、玄関と思われる場所から敷地外に出る。昌山に連絡を取るなら彼らの居ない場所での方が良いだろう。
まだ学校内に居たがために、荷物は教室に置いたまま。更には、知らない間に学校自体が変わってしまったのだから昇降口にはあたしの靴箱はない。仕方がないから上履きのまま外へと向かった。
そうして制服のポケットに入っていたスマホを唯一の所持品として、あたしは見覚えのない道端に立ち尽くすことになるのである。