Target8:男装少女
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「ねぇ、お願いがあるんだけど。」
ばくり、と心臓が大きく波打つ。
緊張、なんだろうな。これは。嫌な汗が背中を伝った。
あたしが先程した事は、古庄寺くんにとっては救いでも、木手達からしたらただの邪魔でしかない。たった今、彼等の目的の邪魔をした奴がお願いがある、なんて図々しいにも程があるだろう。けれど、それでも今、あたしが頼れるのは敵意を滲ませる彼等だけだった。
「
「知ってる。」
「
「……キミ達にしかできないお願いなんだよ。」
古庄寺くんが女の子である事を木手達が知っていると言うのなら、これ程都合の良い事はない。
温泉には学校ごとに行く事になるだろう。そうなれば、あたしと里は氷帝か青学の面々とになる。
そうなれば古庄寺くんは?立海と行ったとしてもまさか同じ湯船に浸かるわけにはいかないだろう。彼女は女の子なのだから。けれど立海の面々はそれを知らない。それなら、最初から彼女の性別を知っている比嘉と行動すればいい。
その為には、今ここであたしが彼等を言いくるめる必要がある。
「汐原くんのお願いを聞いて、我々に何のメリットがあるんですかね。」
あたしはメリット、と口内で反芻して、一つ溜息を零した。それから唇を一つに結んで、ちらりと木手へと視線を移す。その視線には間違いなく、助けての意味が込められていて、そう、少し前の、古庄寺くんと同じ視線な筈だ。
木手達に提供できる対価が無いわけではない。
寧ろ、木手達からするとあたしがお願いしたい事よりもメリットがあるだろう。けれど、あたしからすれば、それは、跡部への裏切りだ。
あたしが提供できるメリット、それは、跡部の企ての情報。
この遭難が仕組まれた物である事。先生達は協力者である事。この計画の目的。それらは木手達が今、最も知りたい事な筈。でも逆に、跡部からすれば最も隠したい事だ。
あたしはそれを隠す為に動いてきた。
悉く失敗に終わってしまったが、里や古庄寺くんを監視下に置こうとしたのは勿論、目の前の比嘉の面々ですら手中に収めようとしてきたのだ。朧げな記憶を辿り、実際に起こっている物事と照らし合わせ、その中で出来る限り真実に通じるものは邪魔をしよう、と。
残念ながら、今の今まで上手くいった事といえば、比嘉中がミーティングに参加するよう説得しただけで、他は完全に流れに身を任せるだけになっていたけれど。
だけど、もしも。もしも、非力なあたしの手で、この合宿の流れを変える事が出来るとするならば、それは。跡部を疑う彼等に全てを話して口止めをするしかないのだろう。
じっと眼鏡越しにこちらを見やる木手の瞳を見つめる。
助けて欲しい。どうすればいいのか、誰か答えを出して欲しい。
木手達へのお願いは古庄寺くんに対する偽善で、その対価は跡部への裏切りで。その裏切りですら、根本にあるのは自身の保身だ。