Target8:男装少女
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首を傾げたままのあたしに、ゆるりと真田の腕が伸びる。反射的に僅かに身を引いた。
「すまない。だが、この日差しだ。帽子くらい被っていた方がいいだろう。」
「え。」
ぽん、と軽い感触を感じると、視界には黒いバイザーの影がちらついた。それはいつぞやに彼の帽子を借りたときと同じで、僅かばかり深く沈む。もしかしなくてもこのまま被っておけと、そういう意味だろう。
「……ありがとう。今度はちゃんと返しに行くから。」
「あぁ、そうしてくれ。」
先程よりも悪くなった視界を持ち上げ、真田の目を追う。かちりとあった瞬間に微笑んでおいた。
先日、真田の帽子を郵送する為に仁王に住所を聞いた時、その時にこの帽子は真田にとって大切な物だと聞いた。その時には、軽率に貸してほしいと口にしたことを後悔したものだが、案外彼は気にしていないらしい。船の中で謝罪を口にした時も特段気にした様子は無かった。
それでも、この帽子が真田にとって大切な物である事に変わりは無い。それを真田の手であたしに貸してくれるというのだから、彼もまた酷く優しい人なのだろう。勿論、厳しさを備えている事は重々承知だが。
「それより、いいのか?誰かを探していたようだったが。」
「あぁそうだ。真田、今、時間ある?浜辺でビーチバレーするんだけど、一人足りなくて。良かったら参加してよ。」
「それくらいなら構わんが……。」
「んじゃ決まり!」
チャンスとばかりに彼の言葉に乗る。これで人数確保のあたしの役目は終了だ。
あたしは自分の目の前に立っていた真田を追い越し、振り向いて付いてくるように促す。その反動でずるりと帽子がずれてしまったのを直すと、真田が見かねてサイズを調整してくれた。
その行動に以前のような断りが無く、問答無用だったのは、あたしが遠慮するのを見越してだったのだろう。それから、さっきあたしが身を引いた時にすぐさま謝罪を口にしたのも、きっと。
「……ありがとう。」
「あぁ。」
それからは互いに沈黙を貫いて浜辺へと足を運ぶ。
じりじりとした太陽は、黒い帽子が和らげてくれたはずなのに、真田の厚意がじりじりとあたしの良心を焦がした。
彼は、優しい。
知っている、そんな事。寛容で、厳しくて。
それでもその根底には、確かに誰かを思いやる心を持っている。知っているのだ、そんな事。とうの昔に。
「真田、ちょっと聞いてもいい?」
「む、なんだ。」
サイズ調整の為に一度真田の手に戻っていた帽子が、再度あたしの頭に被さる。それはもう、ずれ落ちてはこなかった。
聞きたいことなんて一つしかないのに、それは喉に詰まって吐き出せない。真田があたしに親切にしてくれる理由なんて聞きだせなかった。幸村と同じ言葉が返ってくるかもしれない、なんて。厚かましい。
でもきっと、それが答えなのだ。きっと。
恋愛か、単に友人としてなのかは分からないけれど。彼の"こうい"は、きっと、好意だ。
「……やっぱ、いいや。なんでもない。」
誤魔化す為の言葉には、ただ、そうか、とそれだけの言葉が返ってきた。あぁ、なんて優しい。あたしは曖昧に笑いかけておいた。