Target8:男装少女
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昼食の後片付けを一人で請け負う事で朝の遅刻の失態を取り戻す。同じく遅刻をした水羽さんも手伝うと言って引かなかったが、其処は何とか言いくるめて自分の株だけを上げる。何やかんやと言葉を連ねたが、結局、最後の一押しは真田副部長の一言だった。
ほぅ、と溜息で色々な心境を言葉無く吐き出し、最後の食器を汲んだ水で流す。二十人強分の後片付けともなるとそれなりに時間がかかってしまった。濡れた手をタオルで拭い、ポケットの中からスマホを出して時間を確認する。午後三時を少し過ぎたところだ。
「……微妙。」
夕飯の下拵えを始めるにはまだ早く、かと言って、山側の誰かの作業を手伝っていたら夕飯の準備に間に合わないかもしれない。さて、どうしたものか。
少し考えていると、ふと広場に水羽さんと大石さんの姿が見える。二人で何か作業をしていたのか、ただの雑談か。どちらでも良いんだろう。水羽さんの表情は私や汐原さんに向けるものとは違い、酷く優しい。遠目からでも分かる程に破顔している。
(大石さんは気づいてないんだろうか。)
あんなにも全身で愛しいと、貴方が欲しいと表現しているのに。
ちらりと視線を大石さんへと移す。そこで思わず息を呑んだ。
大石さんは気づいていないんだ。水羽さんが自分の事を想っているのだと知らないんだ。
だって、きっと、それ以上に大石さんが水羽さんを想っているから。
元々の性格も有るのだろうが、大石さんは水羽さんの優しい表情よりも更に柔らかい笑みを浮かべている。広場に居るのは彼らだけではないのに、確かにあの空間は彼らだけの物だった。
恋は盲目。大石さんは水羽さんに盲目になり過ぎて、彼女の気持ちに気付いていない。それは彼が鈍感なのではなく、それだけ水羽さんが愛されている証拠だ。
あぁ、なんて羨ましい。
別に大石さんが欲しい訳じゃない。私は誰か特定の人物に愛されたい訳じゃない。ただ、幸せになりたいのだ。
自分の家族も友人も、積み上げてきた自分というものですら投げ捨てたのだからそれに見合うだけの見返りが欲しいだけなのだ。だから。
「……汐原さんだけじゃ、ダメだ。」
水羽さんからも、汐原さんからも、私は彼らを奪い取らなくてはいけない。それはもう、目的ではなく意地だったけれど。それでも。
私は大石さんと別れた水羽さんの背中を追った。