Target8:男装少女
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一時間程度の探索の末、見つけたのは廃れた漁村に残っていた穴の空いた網だけ。それすらも一応持って帰っておこうという話になって、漸くサバイバル合宿なのだと実感が湧いた。
帰りの道は行きと違って網で手が塞がっている為、手を繋ぐ事は出来ない。けれどその分会話が弾んだ。互いの好きな色、好きな食べ物。ちょたの飼っている猫の話。それから夏休みの予定まで。今までの遠慮を取り戻すかのように、躊躇いの無い問い掛けは寧ろ心地よかった。
「琹さん、重くないですか?」
「大丈夫、殆どちょたが持ってくれてるしね。」
そこまで非力ではないと両腕に乗せていた網を片腕に寄せ、力瘤を作るように肘を曲げて力を込める。残念ながら力瘤と言うには柔らかい二の腕が晒されただけだった。ちょたが軽く吹き出す。
「筋肉なんて全然無いじゃないですか。」
「うん、思ってたより筋肉無かった。自分でも驚き。」
本当に網自体は大した重みは無いのだ。
軽々という訳ではないが、足場の悪い道を進むのに支障を来さない程度の重さだ。なんら問題はない。
それでもちょたは普通に歩いていただけでも軽く爪先をもつれさせていたあたしが心配なのだろう。足を止めて、休憩しませんか、と口にした。
合宿所まではあと少しといった場所。ここで休憩するくらいなら戻ってしまった方が早いのではといった距離だが、ちょたが立ち止まってしまっては仕方ない。あたしも足を止め、足元に網を置いた。
「あぁ、そうだ。ちょた、明日手が空いたらビーチバレーしない?」
「ビーチバレーですか?」
「そう。サエと約束してるんだよね。」
「それなら是非参加させてください。」
うん、と返すと網を地面に置いたが故に手ぶらになっていた手を引かれる。それに逆らう事はせず、ちょたとの距離を詰めると一瞬で距離はゼロになりリップ音を立てた。
柔らかい感触と、それからちょたの吐息があたしの唇を掠める。殆ど距離の無いちょたの唇がゆったりと弧を描いた。
「ずっと、こうしたかったんです。」
えへへ、とはにかんだ笑顔を浮かべるちょたに、あたしも同じ様に頬を緩める。何時ぞやに感じた物足りなさは何処にもない。満ち足りた気分だ。
「合宿所に帰ろうか。」
「……はい!」
太陽は徐々に傾いてきている。夕焼けに染まるまでもう間も無くだろう。合宿所に戻って夕飯の準備をしなければ。
今朝は結局観月と裕太に任せてしまったから、夕飯こそはと決意を新たに胸を張り網を持ち上げる。夕飯には何を作ろうか。朝に作ったカレーは、昼食時には当たり前のように平らげられていたから作り置きも無い。インスタントに頼らず一から作らなければならないが、今なら何とかなる気がした。