Target8:男装少女
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瞳がゆらゆらと揺れて、眉を寄せて、どうしていいか分からないと全身で表している。繋がれた手だけがあるべき場所を与えられたかのように堂々と佇んでいた。
「迷惑だよ。」
「すみませ……っ!」
ちょたの優しさは臆病と表裏一体なのだろう。
ちょたはあたしに我儘を言えばそれが通ると当たり前のように思っている。それは以前あたし自身が彼にそう伝えているのだから傲慢だとは思わないし、不快にもならない。だからこそ、ちょたはあたしに我儘を言わないのだ。
言ってしまえば、あたしがそれを叶えてしまうから。独りになってしまうから。そしてちょたは、それに対して責任が取れないから。
だからあたしに対して、他の人と関わらないでほしいと言わないのだ。
全てあたしの推測でしかないが、彼の気持ちには既視感を感じた。だって、あたしもそうだから。
「あたしに対して遠慮なんて、迷惑なんだよ。」
「え……?」
「あたしは確かに自分で決断するのは嫌だし、出来る事ならキミ達を言い訳にして全部押し付けたいとすら思ってる。」
そう、思っている。
本当はちょたが氷帝のテニス部以外に関わるなと言ったから、幸村の気持ちを知っていながらその手を振り払うのだと言い訳にしたい。
観月はあたしを"責任感が強すぎる"と評したがそんな事はない。いつだって自分の逃げ道ばかりを探しているような人間だ。
それでもあたしがそうしないのは、単に跡部達がそんな人間を求めていないからだ。嫌われたくない、捨てられたくない。だから見栄を張る。
「約束する。あたしはちょたに責任を押し付けない。だからキミの思ってる事を教えてほしい。」
「琹さん。」
ちょたの表情が変わっていた。
申し訳なさや不安を滲ませていた表情は一転、コートの中でボールを追いかけている時の真剣さを感じる表情に変わっている。
片方だけを繋いでいた手は、彼の手によって両方を掬い上げられた。少し屈んで、あたしと目を合わせるように覗き込むとそのまま口を開く。
「好きです。」
「うん。」
「俺、宍戸さんや跡部さんの側で嬉しそうに笑う琹さんが好きです。」
「ちょたの側でも変わんないと思うけどね。」
あたしの言葉にふわりとちょたの頬が緩む。真剣な表情が少しだけ綻んだ。
「ずっと俺達の側に居てください。」
「それだけでいいの?」
氷帝以外の人に関わらないで下さい、とそう言われる事を覚悟していた。明日のサエとの約束をどうしようかとも思っていたくらいだ。
それなのにちょたの口にした我儘は、我儘と言えるものではない。拍子抜けして、緊張で強張っていた口角が緩んだ。
「はい。だって、俺は。」
「あたしを独りにしたくないんだもんね。……分かった。約束するよ。」
どの道あたしから彼等の元を離れる気は更々ないのだ。それをちょたも分かっているだろう。彼はいつだって優しくて臆病で、愛しいのだから。