Target8:男装少女
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
手を繋いだままちょたと歩く。時折小枝に足先を引っ掛ける以外には特に問題は無い。ちょたも、あたしが躓く度にハッと顔を僅かにこちらに向ける以外の反応はしなかった。
沈黙。互いの呼吸音を、昨日も聞いた鳥の囀りや小枝の折れる音が遮る。あまり心地の好いものではない。
「ちょたって、あたしの事嫌い?」
あたしの言葉に彼の足が止まる。
自分で問い掛けておきながら言葉が返ってくるのが怖かった。それでも、ちょたと共に行動する際の微妙な空気は今日の事だけではなかったから。彼があたしの事を嫌っているのだとしたら、こうして手を繋ぐのも、共に時間を過ごすのもあたしのエゴでしかない。優しいちょたの事だから不愉快だと思っても拒絶なんてしないだろう。一方的な好意が相手に与えるのは苦痛だ。ちょたを大切に思うからこそ、そんな事を押し付けたくはなかった。
そんな思いから口にした言葉は、喉がカラカラに乾いているからか、少し掠れていた。もしかしたらちょたに届いていないかもと思ったが、確かに彼の歩みは止まっているのだからそんな事はないだろう。力が込もる手に顔を上げるが視線は合わなかった。
「最初は同情だったんです。」
「え?」
「琹さんはたった一人で異世界に来て、可哀想だと思ったんです。……俺が一緒に居てあげようって。」
搾り出すような声。
以前に聞いた彼の心中よりも具体的な感情。
同情心は悪く言えば上から目線での感情だ。ちょたの感情も例外ではない。あたしの側に居て"あげよう"と言うのは紛れもない、ちょたがあたしより優位に立っていると思っているからこその言い回しなんだろう。それでも、ちょたの表情は微塵も優越感に浸ってはいない。
寧ろその同情心に束縛されて、苦しみ、踠いているように見える。
「それなのに琹さんは、どんどん交流の輪を広げていって、いつも沢山の人に囲まれていて。」
「うん。」
「俺の手が届かない場所に行ってしまうんじゃないかって、不安なんです。……琹さんにとって、俺は必要ないのかもしれないと思うと怖くて堪らなくて。すみません、こんなの迷惑ですよね。」
顔を背けたままの彼の言葉に、あぁ、なんて優しいのだろうと思うのは、あたしにも好きな人補正がかかっているからなのだろうか。
あたしは同情なんて要らないと言い切れるほどプライドは高くないからかもしれないが、ちょたの優しさが可哀想だと思えてしまうのだ。優しくて、臆病で。もっと我儘だって言えばいいのに、と。
赤也のように年下なのを良い事に、感情のまま動いたって良いだろうに。日吉のように自分の力を信じて、多少強引になっても良いだろうに。
言えば良いのだ。あたしに向かって、俺以外の人と関わらないで下さい、と。それを聞いて判断するのはあたしだ。誰かに決断を任せるとしても、自分自身で答えを出すとしても。それを決めるのはあたしだ。その結果、あたしがどうなろうとちょたには何の責任はないのに、その一言を言えないちょたが酷く愛おしい。
漸く以前のちょたの言葉を全て理解出来た気がする。あたしが一人で居ると嬉しいけど、独りにしたい訳ではない、と、そう言う事だったのだ。だとしたら、あたしが彼に言うべき言葉は決まっている。
「うん。迷惑。」
ちょたの視線が漸くあたしに向けられた。