Target8:男装少女
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「明日、晴れたらビーチバレーでもしようか。」
結局自分から話し始めないサエに代わって、あたしが話題を振る。スポーツバッグの中に入れてきた唯一の娯楽品と言っていい、潰れたままのビーチボールを思い浮かべながら口にした提案は、予想以上に彼の表情を晴れさせた。
戸惑いがちな視線は何処へやら。晴れ晴れと嬉しさに頬を緩め声を弾ませる。互いの手の空くタイミングが被るとは限らないのに、それでも絶対だと言うようにワクワクと胸を弾ませているのが見て取れた。
「それなら剣太郎達にも声をかけておくよ。」
「じゃああたしも色々誘ってみるね。」
どうせなら大人数での方が楽しいし、あたしの運動神経では六角の面々に対抗出来るとも思えない。宍戸達を巻き込む事にして一先ずサエとの会話に一段落つけてから腕時計代わりに携帯しているアンテナの立っていないスマホをポケットから取り出す。ホームボタンを押すと、数%充電の減っている電池マークと圏外の文字を差し置いて、でかでかとデジタル時計が表示されている。その時刻は三時手前を示していた。そろそろ探索に付いて行くためにちょたを探さなければ。
「サエ、ごめん。そろそろ行かないと。」
「あぁ、引き止めてごめん。」
「いいよ。明日楽しみにしてるから。」
罰ゲームに乾汁でも貰ってこようか、なんて割と洒落にならない事を考えてみたがその罰ゲームを受けるのが高確率で自分である事に気が付いて、口には出さなかった。興味本位で少々口にしてみたい気はするが、あのリョーマですら変顔を晒すレベルなのだからあたしに飲み干せる気はしない。無謀な事にはチャレンジしないのが一番だ。
あたしは食堂のサエに手をひらりと揺らす事で別れを告げ、探索に行くちょたを探す為に合宿所を駆け回る。それ程視界を遮る物が無いのだから直ぐに見つかると思って、適当に足を運ぶと程なくしてちょたの姿を見つけた。あたしに気づく事なく歩みを進めるちょたの姿を声を張り上げる事で呼び止め、駆け寄る。
「ちょた、待って……っ!」
数メートルの距離を詰めるだけなら流石に息を乱す訳もなく、あたしの声に立ち止まったちょたは何気ない仕草で振り返った。
「あれ、琹さん。どうしたんですか?」
「ちょたはこれから探索だよね。付いて行ってもいい?」
「はい、勿論です!行きましょう。」
ちょたは当たり前のように二つ返事で了承して、先程よりも少し速度を落として歩き出す。それは確実にあたしのスピードに合わせる為だった。
彼の長い脚では逆に少し歩き難いだろうそのスピードは、森に差し掛かるとさらにスピードを落とす。小枝を足先でぱきり、ぱきりと踏み折る感触を楽しむあたしに合わせたのだろう。その優しさが妙に歯痒い。
「どこまで行くの?」
「取り敢えず、一時間位で行ける所まで行こうと思います。何も見つからなかったら無理をしないで帰った方がいいって跡部さんから指示も出てますし、それ程遠くには行きませんよ。」
そっか、と返して視線を落とすとちょたの掌が手持ち無沙汰に揺れていた。それを見て、ちらりとちょたを見上げる。彼の表情は普段通りで、あたしの視線に気がつくとにこりと笑った。
「琹さん?」
「あぁ、うん。……ねぇ。」
あたしの呼びかけにちょたは首を傾げる。地面を踏みしめる音も止まった。
あたしはそんなちょたの指先を拾い、自分の指に絡める。あぁ、これで漸く満足だ。
「手を繋ぎたいなって、そう思って。」
あたしの言葉に、ちょたの指先がぴくりと跳ねて、そのままあたしの手を離すまいと強い力で絡め取られた。