Target6:腐少女
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夢から覚めたい。あたしは廊下を走りながら自分の頬を抓った。痛いと感じる程の力を指先に込めるが、現実の自分が目覚める気配は無かった。その他にどうすれば目覚めるのか、と方法を考えるが思いつかない。頬を抓るとか、叩くとか兎に角痛みで目を覚ますのが定番で、あたしはそれ以外に知らない。それならばネットで検索しようと、この世界に来て初めて、スマホをポケットから取り出してホームボタンを押した。
「……え?」
ホーム画面を押したところで、画面は暗いまま。夢に引き篭もってから一ヶ月程度触っていないのだから、充電が切れていても可笑しくは無いが何もこんな所までリアルにしなくても、と一つ舌を鳴らした。
何度ホームボタンを押しても反応しない媒体をポケットに乱暴に押し込み、教室のドアを乱暴に引いた。ガラガラと少し大きな音を立てた所為で、教室で昼食を摂っていた生徒の視線が一気に此方に集まる。鬱陶しい。
あたしは手近な席の生徒に近寄り、見下ろすようにして声をかける。
「……ねぇ、スマホ貸して。」
「え?……え、と、それはちょっと……。」
食事を終え談笑していた女子生徒は困ったように眉を下げ、あたしのお願いを拒否する。あぁ、どいつもこいつも。何で夢なのにこんなにリアルにするんだろう。面倒くさい。
「いいから貸してよ。」
目を覚ます方法を調べるだけなのに。
ちらりと机上を見ると、その生徒の物らしきスマホが置いてある。あたしはそれを無理矢理手に取り、ホームボタンを押した。
「ちょっと!」
取り返そうとする女子生徒の腕を避け、画面に目をやると当たり前のようにパスワード入力を要求されるそれに、更に苛つきが高まる。あたしは無愛想に口を開いて、パスワードを問うがそれに返事は返って来ない。ただ睨み付けるような視線だけを向けられて、再び一つ舌を鳴らした。
「元井さん、いい加減にしなよ。自分がどれだけ失礼な態度取ってるか分かってる?」
「夢なんだからどうでもいいでしょ。」
「夢?何言ってるの?此処は現実だし私達は生きてる!」
女子生徒はぽかんとするあたしの手から強引にスマホを奪い取った。その時に、彼女の爪が引っかかったのか、ぴっと赤い線が一本手の甲に入る。ピリッとした微かな痛みが自身に走った。それでも。現実のあたしは目覚めない。
(これは、夢じゃ、ない……?)
周囲をぐるりと見渡すと、一人残らずあたしの事を見ていた。軽蔑、憤慨、嫌悪。一人としてプラスの感情であたしを見ている者は居ない。当たり前だ。あたしは此処にきてからずっと横柄で自分勝手な態度ばかりだった。だって、これは夢で、あたしの世界で。
けれどどうしたって覚める事は出来ない。
「あ、あ、違う……!」
違う、違う。こんなのは望んでいない。
けれど、上手くいかない跡部達の事も、何故か妙にリアルな世界感も。"現実"であるならば全てが噛み合っていて。あたしはふるふると首を振ってそんな考えを頭から追い出した。
此処が現実だなんて、あまりにも非現実的すぎる。跡部達は漫画のキャラクターで、本来実態が在ってはいけないのだから。
あたしは荷物を引っ掴んで教室を飛び出した。あの部屋に戻ってスマホを充電してみよう。夢から覚める方法は、きっと何処かにある筈だ。
(これは夢だ。これは、夢だ。)
だってそうでなければ、あたしは独りぼっちで残りの中学生活を生きていかなければならない。そんな事、あたしは望んでいない。
けれど頬を掠める風も、照り付ける太陽の所為で滲む汗も、昼食を摂っていない所為で鳴く腹の虫も。どれも嫌なくらいリアルだ。