Target1:氷帝学園男子テニス部
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……あたしは跡部の事、好き、だけど、跡部だけのものにはなれない。」
跡部が添えている手の所為で逸らせない顔の代わりに、視線だけを跡部の瞳から外す。こういう時の彼の目は全てを見透かされるみたいで少し、苦手だ。
緩く首を振りながら彼の胸を押す。それ程力は入れていなかったが、跡部の身体は少しだけ距離を取ってくれた。
跡部への言葉は嘘ではない。跡部の事は普通に好きだし、勿論他のテニス部員も。もっと言うなら、あたしはまだ会ってはいないが他校のテニス部員だって大好きなのだ。それこそ半信半疑の都市伝説に願ってしまうくらいには。
けれど、だからこそ。跡部の甘美な誘いに乗って、全て跡部のせいにしてしまうのが、嫌だった。
跡部がこう言えと言ったから。跡部がああしろと言ったから。何かに対する結果に於いて、跡部を言い訳にしたくなかった。
だから、跡部だけのものにはならない。
あたしは誰か一人のものには、なりたくない。
「……跡部?」
考え込むように黙ったままの跡部に思わず声をかけた。あまりにもな反応の無さに逸らしていた視線を跡部に向けると彼の唇に目を奪われる。先程まで、この唇があたしに触れていたのだ、と今更になって実感してしまって顔が紅く染まる。熱い。あぁ、もう少しだけ、あのまま跡部に触れていたかった、と思わず思ってしまうのはなぜだろうか。ばくばくと心臓が、煩い。
「ふっ。」
チラチラと視線を彷徨わせるあたしに気がついたのか、跡部が口元で笑う。そしていつの間にか離れていた掌をもう一度添えて、跡部はあたしの唇を添えた手の親指でなぞる。
まるで、欲しければおねだりしてみろと言われているようだった。じくりと熱を孕んだ瞳で見つめられる。もう、視線は逸らせなかった。
あ、う、と何度か意味を成さない音を零していても跡部は見逃してくれない。熱で濡らした瞳で見つめられると、素直にならないといけない気がした。あぁ!もう!!
「……あと、べ。もう、一回。もう一回、して……っ!」
言い切る前に、あたしの緊張と羞恥でカラカラに乾いた唇を潤すかのように跡部の唇が重ねられる。先程は余裕が無くて感じられなかった跡部の熱が、確かに感じられて。
あぁ、彼は生きているのだ。
薄くなった酸素に、じわりと生理的な涙が膜を張る。本日二度目の涙は、どちらかというと歓喜の色をしていた。
羞恥で再度跡部から視線を外したところで、予鈴が鳴る。今度は確かにあたしにも聞こえた。教室へと向かう為に立ち上がった跡部が、少し名残惜しそうに見えたのは多分気のせいではない。その程度には好かれている自負があった。
「……琹、あまりサボるなよ。」
ここで絶対にサボるな、と言わない辺りなんとも優しい生徒会長様である。思わずふふっと笑い声が漏れた。
向日とも、きちんと話してみよう。
彼らのことをもっと知りたいと思う為に、今まで"知っていた彼ら"は忘れてしまおう。
ボロボロと流れていた涙は、もう一つも残っていない。残っていたのは一人になったあたしを照らす、眩しい太陽光だけだった。