Target6:腐少女
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昼になって、あたしが購買に行く為に廊下を早歩きで進んでいると、忍足と元井が歩いて行くのを見かける。不自然な組み合わせに酷く濁った物が胃の辺りに溜まるが、忍足が先行して歩いていたから、元井に強制されたのではなく忍足の意思でそうしているのだろうと見なかった振りをした。
「ただいま。あれ、忍足はまだ?」
あたしはいつも通り、パンと飲み物を跡部の向かい側辺りに座る日吉とちょたの間に置きながらお決まりの挨拶を口にする。
いつものメンバーが揃っている中庭。その中で忍足の姿だけがない。その事にちらりとフラッシュバックした、先程の元井を連れた忍足の姿に不安が広がる。
「お帰りなさい。忍足さんなら元井と話があるから先に食べていて欲しいって言ってましたよ。」
日吉のその言葉に弾かれたように走り出した。
さっき忍足を見かけたのは、二年生の教室のある階の廊下。階段を降りる一瞬だけだったからどこの教室に向かったのかは分からないけど、多分人の多い教室では無いだろう。人が居てもいいのなら、移動する必要がないのだ。元井を呼びに行って、そのままその場で話せば良い。実際には、元井を廊下で呼び止めたのかもしれないが、日吉が忍足から伝言を預かっていた以上、二年F組に顔を出した可能性は高い。
それなら、多分、普段の授業では使わない教室。選択授業や少人数制の授業でのみ使う教室なら、お昼のこの時間は空き教室になっているし、鍵もかかっていない。多分、そこだ。
考えたくなかった。忍足が元井を呼び出した理由を。告白、なのではないか、と思ってしまって。
忍足はあたしの物じゃない。あくまでもあたしの親友候補だ。だから、彼が誰を好きになろうとあたしに口出す権利は無い。況してや、あたしは忍足に好きだと言ったところで、彼一人を選べる訳でも無い。忍足の言葉に元井が何て答えるのかは知らないが、忍足が元井に想いを伝える事には、あたしは何も言えないのだ。
それでも。
「忍足だって……追い出せ……でしょ?跡部から……引き……から。」
弾む息を整える為に一度足を止めると、微かに元井の声が聞こえて顔を上げる。
(ここだ……。)
忍足の声は聞こえない。元井の声が大きいのか、はたまた、忍足の声が低くて聞き取り難いだけなのか。否、この感じだと元井が扉の近くに立っているから元井の声だけが聞こえるのだろう。あたしは扉にピタリと耳を付け、聞き耳を立てた。どきりどきりと心臓が嫌な跳ね方をする。元井に出会ってからいつもこうだ。どうせ心臓を高鳴らせるならときめきの方が何倍も良い。こんな冷や汗が滲むような緊張感なんて真っ平だ。
「忍足は跡部の事が一番、好きだもんね?」
元井がゆっくり、ねっとりと言葉を発する。あ、あ、と声にならない単語が口から溢れた。この先は、聞きたくない。こんな質問、忍足がなんて答えるかなんて。聞きたくないのに、足はその場に貼り付いたように動かせなくて。
どうにか彼の言葉を止めようとあたしは震える指先で引き戸を開けた。
「俺が一番好きなんは……琹ちゃんや……って、あかん。」