Target6:腐少女
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関東大会が終わって氷帝はまた日常に戻った。開催地枠での全国大会出場が決まり、一瞬だけ静寂に包まれたテニス部もまた活気に満ち溢れていた。
ふわりと欠伸を噛み殺す。相変わらず授業は意味の分からない単語が並んでいて、ノートを取る気にもなれなかった。日吉から勝ち取った席で中庭を観察するが、そこには誰も居ない。ジローや向日辺りがサボりにでも来ないかと思っていたが、あたしがこの夢を見始めてから誰一人として来た事は無い。昼休憩にテニス部と汐原が昼食を摂っているだけだ。
(つまんないな……。)
関東大会で氷帝が負けるのは知っていた。前代未聞の補欠戦が行われて、その結果氷帝の夏が終わると。手塚対跡部戦は、それはもうドキドキとしたし、絶対この試合で手塚は跡部の事を意識すると確信を得た。跡部の仕掛けた長期戦に敢えて乗った時の手塚の顔!無表情に近かったけれど、あれは絶対、自分で長期戦を仕掛けながら罪悪感を抱いている跡部に対して愛しさを抱いていた顔だった。日吉対リョーマ戦が終わった時だって、跡部は泣く日吉を抱きしめたかった筈だ。抱きしめて、泣くんじゃねぇよ、って泣きそうな顔で言いたかっただろうに。
珍しく汐原が気を利かせてコートを立ち去ったかと思うと、日吉が泣き止んだ頃に戻って来て余計な事を言う。その所為で日吉は完全に立ち直ってしまい、跡部の出る幕は無くなってしまった。更には日吉とキスまで。
あぁ、ムカつく。ただ、アイツはどうやら榊監督には好かれていないらしい。あたしと汐原のどちらかを辞めさせると宣告された時、内心ニヤリと口角を上げた。
そうこうしている内に就業のチャイムが鳴る。委員長が起立、と号令をかけるが、あたしは座ったままやり過ごした。
「……元井さんに話があるんやけど、居る?」
「えぇ、まぁ。居ますよ。」
呼んでくれへん?と言う忍足に日吉が返す前に、忍足に近づく。向こうから来てくれるとは丁度良い。あたしも忍足と話がしたかった。
「あたしに何か用?」
「……ここじゃなんやから、場所変えよか。」
無言のまま進む忍足の後ろを此方も無言でついて行く。徐に彼が扉を開けて入ったのは空き教室だった。
「元井さん、単刀直入に聞くんやけど、自分、何が目的なん?」
「目的?そんなの汐原をテニス部から追い出す事に決まってる。」
扉を後ろ手で締めて、此方を向く忍足と視線を合わせた。丸い伊達眼鏡の奥の切れ長の目が僅かに細められる。唇は一文字に結ばれ、その顔からは表情が失われていた。
「忍足だって、汐原を追い出せたら嬉しいでしょ?跡部からあの女を引き離せるんだから。」
嬉しいって言って。跡部を取り返せるって。
だって忍足は。
「忍足は跡部の事が一番、好きだもんね?」
そう、やっぱり跡部の相手に相応しいのは忍足だ。忍足だって昼食時に跡部の隣に陣取る事が多かったし、部活中だってよく跡部の側に居た。朝、正門を潜った時に跡部が居ると嬉しそうに頬を緩めていたし。跡部は皆の跡部だから、きっと少しでも側に居たかったんだ。それなのに、忍足の目は更に細められる。
「跡部も別に嫌いやないけど、俺の一番好きなんは……琹ちゃんや……って、あかん。」
ガラリと背後の引き戸が開けられる。反射的に振り返ると、そこに居たのは汐原だった。汐原の目は驚愕で大きく見開かれている。忍足の今の言葉を聞いたのだろう。あぁ、ムカつく。夢の中なのに、どうしてこうも上手くいかないの。あたしは金切り声を上げた。
「何でアンタなんか!愛されるのはアンタじゃなくて跡部なのに!アンタなんか要らない!!」
もういい、こんな世界。要らない。夢から覚めて捨ててしまおう。汐原みたいな余計な女が居る、こんな世界なんて。あたしは汐原を突き飛ばしてそのまま廊下を駆け出した。