Target6:腐少女
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「お疲れ様でした。」
ベンチに座ってタオルを被って項垂れる日吉の頬に、少し迷ってブラックコーヒーの方を当てた。その冷たさにか、背後からの気配にかは分からないが日吉の肩が跳ねる。じとりと此方を振り向くその視線は、もう涙は流れていないものの、僅かに赤く充血していた。飲み物より目薬の方が良かったかもしれない。
「ミネラルウォーターとブラックコーヒー、どっちが良い?」
彼は口を開かない。開けないのかもしれない。
あたしだって泣き止んでいても嗚咽が漏れそうになる事は経験した事がある。もし日吉もそうなのだとしたら。今にも泣き出しそうなのだとしたら。
「……あたしはさ、強い選手が好き。」
日吉の隣に腰を下ろし、目を瞑って彼の肩に寄りかかる。距離が縮まった所為で彼が息を呑んだのか分かった。
竜崎先生はあたしの言葉をそのまま伝えれば良いと言った。なら、そうすれば良い。慰めでもなんでもない、あたしがただ竜崎先生の質問に返しただけの言葉。
「あたしの中で、強い選手ってやっぱりキミ達なんだよ。……誰よりも強くて誰よりも綺麗でさ。それは例え負けたとしても変わらない。大丈夫、全国大会でリベンジ出来るよ。」
「……ッ、全国の出場権が無いんですが。」
乾いていた日吉の瞳にまたじわりと涙が滲む。あたしは飲み物をベンチに置いたまま、立ち上がって日吉の正面に立つ。タオルごと彼の頬に手を当てると、強引に視線を合わせた。
「あるよ。キミ達は全国に行く。あたしの勘なんて当てにならないかもしれないけど、偶にはあたしの言う事を信じてよ。」
勘なんかじゃない。あたしは知っている。この先の未来を。全国大会でも青学に負けてしまう事を。それでも勘だから、と逃げ道を作ってしまうのは、彼等の事を信じていたいからだ。あたしなんかが口出ししなくても、彼等なら未来を変えられる。そう信じていたいからだ。
そう自分に言い聞かせる。本当はただ、怖いだけ。それでも強がっていたかった。逃げ腰の自分なんて、彼等に知られたくないから。
「前々から思ってましたけど、アンタ馬鹿ですね。」
「……それはないんじゃない?」
日吉はあたしの頬に手を当て、強引に引き寄せる。彼がベンチに腰掛けている以上、あたしは前屈みに腰を折るしかない。思わず彼の頬に当てていた自分の掌を日吉の手に重ねた。
「こっちはずっと前から信じてるんですよ。……異世界人だという事も、アンタが
だったらもう、その言葉も信じるしかないじゃないですか、とくしゃりと顔を歪めた。じわりと瞳に滲んでいた涙が、一つ雫を作って日吉の頬を流れ落ちる。それは随分ゆっくりのような気がした。
あぁ、綺麗だ。とても。誰も居ないコートなんて比べ物にならない程に。
「……やっぱりキミは強いよ。」
日吉の掌に力が込もる。少しずつ、少しずつ、互いの距離が縮まって行く。あたしはゆっくりと瞼を下ろした。