Target6:腐少女
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例えば、この、水色の絵の具をばら撒いたような空が作り物だったとしたら。この何処か遠い所での出来事に感じている試合は、やはり漫画なのだろうか。選手の息遣いも、思考も。
もしかしたら、あたしも。
全部全部、作り物だったとして、物語だったとして。結末は、あたしを必要とするのだろうか。
そう思ってしまう程に、何も、何も変わらなかったのだ。細かい試合運びや得点の動きを記憶しているわけではないけど、誰が誰に勝ったか位は覚えている。
何一つ変わらない。
今日、氷帝は、負けた。
しん、と時が止まったように辺りは静まり返って、それから、泣いた。あたしじゃない。周りが泣いたのだ。
ぐずりぐずりと、一人の涙が伝染していき、二百人と言われる人数の泣き声が木霊する。レギュラーでもないのに、と何処か皮肉めいたことを思ったのは、マネージャーでありながら涙を流すことが出来ない八つ当たりだろう。
悔しいと、思えなかった。
何故か、悔しい、なんてほんの一ミリも。
綺麗だという思いが上回って、もう誰も立っていないコートを見つめた。緑と白が眩しい。そこに彼等は立っていたのだ。眩しい程のコートが霞んでしまう程に輝きを含んで。
悔しい、なんてそれよりも。
「……羨ましい。」
綺麗だと思った。それを羨ましいと感じた。あたしは、この作り物のような世界に魅入ってしまった。
あの日吉が泣いている。悔しいと顔を歪めて、すみません、と彼の責任では無いのに。
榊先生を始め、跡部や忍足のレギュラー陣に囲まれて慰めを受ける日吉を見つめる。本来なら、あたしもその輪に混ざるべきなんだろう。日吉に、お疲れ様、と。彼が望むなら抱き締めて、素直じゃない彼の望む言葉を探して告げるべきなんだろう。それでも、今はこの場から立ち去るのが一番正しい気がして、あたしはコートから離れる。
何か飲み物でも買って来よう。戻って来る頃には、きっと日吉も泣き止んでいるだろうから。
日吉の分も買って、今度こそお疲れ様でした、と渡そう。あたしに出来る事なんて、それくらいの物だ。
自販機のコイン投入口に百円玉を二枚投入する。取り敢えず無難にミネラルウォーターを選ぼうとして、後ろから伸ばされた手に邪魔をされた。ガタンと音を立てて取り出し口に落ちた飲み物を確認すると、ブラックコーヒー。
「氷帝のマネージャーがこんな所で油を売っていいんか?」
「え。」
派手なピンク色のジャージ。明るい茶色の髪をポニーテールに結い上げた彼女は、ブラックコーヒーを取り出すあたしの横で小銭を投入口に入れた。
「お前さん、強い選手が好きか?」
「……えぇ、まぁ。」
竜崎先生の唐突な問い掛けに反射的に答える。強い選手、と聞いて真っ先に思い浮かぶのは跡部達だった。
「負けたらそいつらは弱い選手か?」
「……!そんな事!」
ない、と竜崎先生の横顔を見つめると満足そうに笑った。
「それなら、負けた時こそサポートするのがマネージャーの一番の仕事じゃないのかい?何、お前さんが今アタシに言った事をそのまま伝えてやればいいさ。着飾った言葉より、乱雑で纏まりがなくても心からの言葉の方が届くもんだからね。」
ほれ、と差し出されたミネラルウォーターを受け取る。そうか、あたしは。彼等にかける言葉が見つからないのを言い訳にして、彼等から"逃げた"のだ。向き合わなければいけなかったのに。
「ありがとうございます。」
あたしは頭を下げて、勢いよく上げた。表情には笑みを浮かべて、いつも通り、と心の中で唱えた。
「竜崎先生、もし良かったら、水羽さんにレギュラージャージの注文書を渡してあげて下さい。……きっと喜ぶと思います。」
考えとくよ、と手を靡かせた竜崎先生にもう一度頭を下げて、あたしはコートの方へ駆け足で戻った。