Target6:腐少女
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ジリジリと露出した肌を太陽が照りつける。あたしは日焼け止めがあまり得意ではないから重ね塗りなんてすることはまずないのだけど、今日ばかりはそうも言ってられない。関東大会初戦。運命のこの日。あたしは一人重い溜息を吐いた。
思い出すのは榊先生からの宣告。あくまでもまだイエローカードだが、以前の元井とのやり取りであたしの立場は大分不安定な物になっていた。あたしは部活内で問題を起こし過ぎている。元井かあたしかのどちらかを辞めさせる、と榊先生からはっきりと宣告されてしまっていた。
未だにどちらかを選択できていないのは、元井にもあたしにも辞めさせる条件が整い過ぎているからだろう。あたしは唯ちゃんの時にも問題を起こしているし、レギュラー専属という、部活内に置いておくメリットの無い肩書きを持っている。けれど、跡部達からの支持は厚く、生活態度にも問題は無い。逆に元井は、部活内で問題を起こしたのは初めてで、レギュラー専属という縛りも無いから、仕事をきちんと教えれば役に立つ可能性はある。しかし、生活態度が悪すぎるのだ。担任の言う事は聞かない、授業はまともに受けない。テストの点も最悪と言って良いし、テニス部員からの支持も薄い。どちらを残してもデメリットは大きく、メリットが少ないのだ。だから榊先生は選び兼ねている。
「……琹。」
不意に呼び止められたその声に従って振り返ると、そこには里の姿。相変わらず羽織っているのはレギュラージャージではなくて、青学指定の体操着のジャージだ。
「オーダー、変えたの?」
なんて事ない視線を寄越しながら不躾な質問を繰り出す里とあたしの間をねっとりとした空気が通りすぎる。あぁ、夏も本番だなと
「オーダーを変えたところで青学より強くないと意味がない。だったら、あたしは氷帝を信じたい。」
じりじりと肌を焼き付ける太陽に苛つきにも似た感情を抱きながらも視線は里から離さない。眩しさで少し目を細める。
本当のことを言うと、嘘を、吐いた。
全てが嘘だというわけではないのだけれど、全て本心だとも言えない。
あたしは怖いのだ。知らない未来が、あたしの選択によって訪れる事が。未来なんて誰も分からないと言うけれど、少なくともあたしはこの世界を知っていて、今日の試合の結果を覚えている。それが変わってしまったら、その先の事も変わってしまう。それがもしあたしの選択の所為だとしたら、それが怖いのだ。
「勝つよ、青学は。」
「……うん、きっと。」
その一言が裏切りになるだろうとは感じていた。彼等の頑張りをあたしはたった一言で否定したのだ。あんなに頑張っていたのに。泣いていた、笑っていた。皆必死だった。それを、たった一言で。くだらないと一蹴したようなものだ。
里はそれだけを言うために来たのか踵を返した。あたしもそれに倣う。
「……あぁ、そうだ。いい加減、レギュラージャージの注文書、貰えばいいのに。」
ついでとばかりに呟いた言葉に里が足を止めて振り返る。その顔は少しだけ悔しそうに歪んでいた。
「煩い、琹には関係ないでしょ。」
じとりと睨みつけるところから、以前一度話して断られた訳ではないのだろう。多分、里が言い出せないだけなのだ。彼等の仲間になりたい、と。合宿で少しは距離が縮まったといえど、まだぎこちないのかな。でも、彼等は彼等のペースで仲間になっていけばいいと思う。
あぁ、もう何も考えたくないなと空を仰ぐと、カラッと晴れた空があたしの視線を奪う。このまま空を眺めていれば、いつかこの色があたしの瞳に移って澄んだ青色に染まるのでは、なんて馬鹿な考えすら浮かんでくる。最近は色々と余裕が無かったから、こうして空を見上げる事もしていなかったな、なんて。
「跡部達の所に行かないと。」
里は既にこの場から立ち去っていた。