Target6:腐少女
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ハハハ、と高笑いをする元井の姿にいつぞやの唯ちゃんの姿が重なる。そこで漸く、元井の目的はあたしを逆上させる事だったのか、と気が付いたのは遅いだろうか。他人の考えを完全に理解なんて出来ないし、なんて自分の危機管理能力の無さに言い訳をした。
「ねぇ、樺地見たでしょ?この女の本性!アンタ達が大好きな女は、人に暴力を振るうような性悪女。だからコイツなんてさっさと捨てちゃったら?」
元井は目尻に溜まった涙を指先で拭いながら満足気に口元を歪める。それに対して、あたしは樺地に視線を向けてぱちくりと一つ瞬きをした。
「……何言ってんの?」
本性も何も、あたしは猫を被っていた訳ではないし、もっと言うなら彼等の前で
「……ッ、だから!アンタは性悪女で樺地達は騙されてんの!この状況を見て、アンタみたいな暴力女を好きになる奴なんて居ないでしょ!」
「琹ちゃんはいつも通りだC。」
とすんと両肩に重量が乗り、視界の片隅に金色が入る。背後から抱き締める為に引き寄せられた身体は、樺地の側に居たらしいジローちゃんの腕の中に閉じ込められた。もしかしたら樺地は、ジローちゃんを探しに行っていたのかもしれない。
「……琹さんの、気が短いのは、皆知っています。」
「樺地、それはフォローになってない。」
つい挟んだ口に、ウス、とだけ返す樺地のそれは分かりにくい冗談なのか、それとも悪意の無いフォローのつもりだったのだろうか。相変わらずの無表情では分からない。けれど、前者にせよ後者にせよ、樺地との距離感が徐々に近づいているのが分かって嬉しかった。気安い関係でなければ冗談を言う事もうっかりと口を滑らせる事も無いだろう。
「……じゃあアンタ達は跡部よりコイツの方が好きだって言うの?」
「跡部も好きだけど琹ちゃんも好き。それってさ、そんないけねぇの?」
ジローちゃんの答えにドキリと心臓が跳ねる。
ジローちゃんの言葉は確かに元井へ向けての言葉だろう。彼女の質問に対しての。それなのに、まるであたしに言われているみたいだった。
誰か一人を選べない、あたしに向けての言葉のようで。ジローちゃんに全てを見透かされているようで。ばくばくと心臓が嫌な音を立てる。今すぐに逃げ出したいのに、ジローちゃんの腕がそれを良しとしない。じとりと嫌な汗が額に滲んだ。
「跡部が好きなら汐原なんて要らないでしょ?!」
「……跡部さんと、琹さんは、違います。……どちらかを、選ぶ事は……出来ません。」
樺地の言葉も、ジローちゃんの言葉も、とても優しいのだ。優しくて、暖かくて。それなのに、その優しい言葉が、あたしの心をズタズタにする。ごめんね、と言えたらどんなに楽か。ぽたりとあたしの頬を熱い雫が伝った。
あたしの涙に怯んだのか、元井は言葉を詰まらせて走って行った。
そのまま帰ったのだろうか。その日、元井の姿を見る事は無かった。