Target1:氷帝学園男子テニス部
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向日の背中を見送った後、予定通り体育館へ足を向けようとして、やめた。そのまま中庭へと目的地を変更する。人生初のサボりだった。
成績だとか先生からの評価だとか、そんな事はどうでも良くて、今はもう、何も考えたくない。考えることを放棄した頭の中を、ただただ向日の言葉がリフレインしていた。
彼らとの関係がただの自己満足であったことも、彼らがそれに気がついていながらもあたしを許してくれていたことも、何も気がついていなかったあたしは、ただの馬鹿だ。それでもって、最低な人間だ。人の気持ちを考えることの出来ない、欠陥品だ。
中庭の木陰で揃えて立てた自身の膝に顔を埋める。彼らは自分達が漫画のキャラクターだとは知らない。筈だ。あたしの態度でバレていなければ。けれど、だからといって人の気持ちを蔑ろにしていいわけがない。あたしも彼らも、立場としては対等な、同じ"人間"なのだから。見下す事も、見上げる事も、本来ならあってはいけない。
あぁ、ごめんと、それで彼らは許してくれるだろうか。
無意識の内に彼らを蔑ろにしていた自分自身が嫌になる。瞼が、熱い。じわりと滲んだのは零していい筈のない涙だった。
「……サボりとは感心しねぇな。」
どのくらいの時間そうしていただろうか、不意に頭上から聞こえた声に、ぐしゃぐしゃの顔を上げる。太陽で逆光になってはいるが、それは間違いなく跡部の姿だった。彼は木陰にうずくまったあたしを見下ろしている。そんな跡部の視線を見る事が出来ず、あたしは自分の膝へと視線を逸らした。
「……跡部だって、サボりじゃん。」
「終業のチャイム鳴っただろうが。」
「……まじか。」
思いの外長いことうじうじとしていたらしい。それでも、この場を動こうとは思えなかった。跡部はそれを察したのか、あたしの隣に無言で腰を下ろす。何を言うでもなく、あたしが話し始めるのを待っているようだった。
「……跡部のさ、跡部の欲しい物って何?」
何を話すか迷って、結局適当に抽象的な質問を投げかける。あたしが知っている通りなら、新しいテニスコートだったと思う。初めて知った時のインパクトが強すぎて忘れられなかった。
あたしの知っている通りの答えが返ってくると思ったのに、彼は質問の言葉ではなく予想外の行動をとった。
俯いていたあたしの両頬に、すらりと綺麗に指が伸びる手を添えて強引に向きを変える。何、と口にする前にそれは塞がれた。驚きに見開いた目に映るのは、何処までも透き通る蒼を隠すように伏せられた瞼。あたしに口付けているのが跡部だと言い切れるのは、彼のチャームポイントである泣き黒子に目が奪われるからだった。
何で、どうして、と口にしようとする度に、跡部は角度を変えてあたしの口を塞ぐ。どれも言葉にならなかった。
「お前だ。琹。」
暫くして、あたしが全て跡部に任せようと諦めた頃に跡部が口を開いた。初めて呼ばれたあたしの名前。それから、きっと、これはあたしの質問に対しての答え。あたしが、欲しい、と。
「お前の欲しい物は全部俺様がくれてやる。……だから、お前は俺の物になれ。」
あたしの両頬に手を添えたまま視線を合わせる跡部の瞳は熱に濡れている。ドキドキと心臓が煩い。このまま跡部のものになってしまえば、全ての判断を跡部に任せてしまえば。
きっとそれが一番楽で、確かで、誰も傷つけない。だけどそうするのは、嫌だった。