Target6:腐少女
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(逆ハー狙い主、か……。)
ちらりと隣で着替える元井に視線をやる。
結局、あたしの着替える時間については保留になっていた。否、有耶無耶になったと言うのが正しいだろう。元井の所為で。
あたしが彼等と一緒に着替えたとして、元井をどうするか、と別の問題が出てきてしまったのだ。彼等と一緒に着替える事は出来ていないが、元井と彼等を引き離す事には成功しているから文句は無い。文句は無いが、相変わらず元井に苛つくのは変わらない。
「……ねぇ、いい加減体操着持ってきたら。」
「アンタのその顔見たいから、嫌。」
元井が身に着けるのはあたしのユニフォーム。八本ラインのユニフォームだ。
元井の制服は既に届いている。それは校内でもこのロッカールーム内でも幾度と無く目にしているから間違いは無い。だから、体操着も届いている筈なのだ。実際日吉に確認すると、そんな事知っている訳がないじゃないですか、と言いながら翌日体操着着てましたよ、と報告してくれた。
元井の言葉に苦虫を噛み潰したように顔が歪むのが分かる。元井は初日のあの日からあたしが嫌がるのを知っていて、態と体操着を持って来ないのだ。榊先生からの言いつけをあたしが拒めないのを良い事に。
「……良い性格してるよね、本当。」
ありがとう、とそれはそれは綺麗な笑みを浮かべた元井の着替えが終わった事を確認して外に出る。プロジェクタールームでバインダーを取るあたしを元井が待っている訳もなく、先に準レギュラー達の部室に向かっているだろう。先に部室に入り、ドリンクボトルのみを取り出してぼーっと時間を潰すのが彼女の常だった。早い話が仕事をしない。
ドリンクを作るのも、ウォータージャグやボトルを洗うのも、タオルの洗濯をして干すのも、畳むのも。全部あたし一人でやっている。ドリンクとタオルを跡部達に持っていくのだけが元井の仕事だ。その事を跡部達は知らない。
あたしは別に跡部達に迷惑をかけたくないから告げ口をしないのではない。多分、元井が仕事をしないのだと彼等に訴えれば直ぐに元井をマネージャーから外すように跡部が動いてくれるだろうし、榊先生も生活態度に荒が目立つ元井を辞めさせるだろう。それをあたしがしないのは、元井をあたしの目の届く所に置いておきたいからだ。
仕事をするつもりが無いのならペースを乱される事なく仕事が出来るし、教える手間を省ける。ドリンクやタオルを持って行くのだって最初は何かしら口実を作って抵抗していたが、何故か元井はドリンクの籠を跡部達の側に置くだけで姿を消しているから放置する事にした。それから暫く部室に戻ってくる事はないが、どうせ仕事をしないのだから居ても居なくても変わらない。
跡部達を狙っている可能性のある彼女を監視しつつ、自分の仕事をこなせるこの状況が都合が良いから跡部達に告げ口をする事はしない。
未だにあたしのユニフォームを着てニタニタと勝ち誇ったような笑みを浮かべるのだけは気に入らないが。
(良い性格をしているのはどっちなんだか。)
あたし一人になった部室には、冷蔵庫の機械音とあたしの呼吸音だけが残っていた。