Target6:腐少女
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中庭のベンチに腰を下ろして隣の滝に寄りかかる。あたしの膝にはジローちゃんの頭が乗っていた。
既に皆昼食を終えていて、予鈴が鳴るまでの時間を各々まったりと過ごしている。本を読んでいたり後輩に絡んでいたり、昼寝をしていたり。一度全員で昼食を共にしてから、晴れの日は中庭に集合するのが恒例になっていた。
「琹ちゃん、寝てもいいよ。」
頭を預けた事であたしが眠いのだと勘違いしたのだろう、宍戸達の会話に笑い声を零していた滝があたしの肩を抱いた。
あたしの肩辺りで肘を曲げ、掌をあたしの頭に添えるとぽんぽんと優しく叩く。それはいつぞやの忍足の手つきを思い出させるには十分で、じわじわと睡魔が首をもたげるがジローちゃんのふわふわした髪を指先で弄ぶ事でやり過ごした。
「大丈夫、ちょっと考え事してるだけだから。」
「考え事?」
そう、と口にして、続きは自分の頭の中だけで思案する。
滝に頭を預けたまま視線を上、ちょうど二年生の教室の窓にやる。流石にどの窓が何組かまでは分からないが、今視線を向けている窓が、F組だというのは知っていた。
あの窓から元井が此方を見ている事に気がついたのはいつだっただろう。皆と中庭で昼食を摂り始めて一週間程経った頃だったような気がする。もう少し後だったかもしれない。
兎に角あたしは疑問で仕方ないのだ。元井は跡部達が好きで、跡部達が欲しくて、それでマネージャーになった。それなら何故昼食に混ざりに来ない?全員が集まっている場所を知っている。教室から此方を観察しているのだから知らない筈がない。あたしが居るから?そんな訳は無い。元井はあたしが跡部達に絡みに行くと普段以上に引き離そうと躍起になるタイプだ。だからあたしが居るから此処に来ないのではない。
理由が分からない。元井が分からない。
初対面の時の印象で知ろうとしていないのだから当たり前なのだが。でも、此処に元井の目的がある気がするのだ。きっといつかは本人の口から聞かなければならない。
あたしはジローちゃんの髪に絡めていた指を解き、ポケットからリップクリームを取り出すとそれを乾いてしまった唇に塗りつけた。
「琹ちゃん。」
「何……?」
呼ばれた声に寄りかかっていた頭を持ち上げると、それを見計らったように滝に唇を塞がれる。それは一度数ミリ程距離を空けて、直ぐにまた重なった。滝が跡部達といえど人前であたしに触れてくるのは珍しいな、とゆっくりと瞼を下ろし、滝が満足するまで好きにさせてやる。時折薄くなった酸素に鼻にかかった声を漏らすと、滝は満足そうに口元を緩めた。
「ねぇ、琹ちゃん。今誰の事考えてる?」
「滝の事。」
目の前に必要最低限の距離を保って滝の綺麗な顔がある。それは近すぎて焦点が合わないくらいだ。あたしの頬に両手を添え、親指であたしの唇をなぞる。そんな風にされて冷静でいられる程あたしは男慣れしている訳でも、滝に無関心な訳でもない。
ばくばくと心臓の音が煩い。煩すぎてジローちゃんが起きてしまうかもと危惧してしまうくらいだ。くらくらとまるで催眠術にかかったように、滝の事しか考えられない。
もう元井の事なんて考えられなかった。