Target6:腐少女
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「ねぇ唯ちゃん。」
振り向いた唯ちゃんにおはようと口にして席に着いた。声をかけたは良いけれど、そこから先が続かない。ここ数日の元井の行動について意見を聞きたいのだけど、何をどう説明すれば良いものか。
「用が無いなら声をかけないで。」
「いや、あるにはあるんだけど……。元井未莉って、知ってる?」
元井未莉、と復唱して、それからあぁ、と唯ちゃんは納得したような声を上げた。
「あのマネージャー、元井未莉って言うのね。」
口元に手を添えてふむと考える素ぶりをする。彼女は何を何処まで知っているんだろうか。少なくとも元井がマネージャーである事を知っているのだから、元井の不可解な行動についても知っているだろう。
「その前に、汐原はこの世界の人間なの?」
「……え?」
「例えばアンタは別世界の人間で、アンタの世界ではこの世界の事が漫画になってたりしなかった?」
その言葉に予測が確信に変わる。矢張り、唯ちゃんはあたしと同じなのだ。別の世界の、異世界の人間。もしも彼女が、あたしと同じ立場だったらどんな選択をするのだろうか。此処に残るのか、元の世界に帰るのか。聞いてみたい気持ちはあるけれど、今は元井の事が先決だ。
「うん、唯ちゃんの言う通りだよ。」
「……なら、これね。」
恒例となったノートを開いてあたしに差し出す。ノートを受け取ると、彼女の指先はトリップという文字に見えない線を引いた。
「そうね、トリップはまさに汐原が体験した事だから細かい説明は省くけど、主人公が逆ハー主の場合多いのが、逆ハー狙い。そしてその逆ハー狙いはトリップしている可能性が高い。」
唯ちゃんの指先が数行下に下がる。
「逆ハー狙い?」
以前唯ちゃんはあたしの事を逆ハー主だと言った。そのネーミングからして、逆ハー狙いはあたしの立場を狙う人なんだろう。けれどそれは腑に落ちない。唯ちゃんもそうなのだろう。けれど、と言葉を続けた。
「元井未莉はきっと、ただの逆ハー狙いじゃないわ。」
「あたしもそう思う。」
「あの子が来てからのテニス部を観ていたけれど、あの子、汐原からテニス部を奪おうとしているにしては景吾達と関わらないのよね。」
そう、それが疑問なのだ。元井はあたしを跡部達から遠ざけようとはするが、跡部達にとり入ろうとはしない。不自然すぎる。
唯ちゃんなら何か分かるかもと声をかけたが、流石に分からないらしい。二人して頭を抱えた。
「……元井も、トリップして来たのかな。」
「可能性は高いけど、今の段階では確信は出来ないわね。景吾達はこの世界でも有名だから彼等を知っているからといってトリップして来たとは決めつけられないわ。」
夢小説の話をしている唯ちゃんは至極真面目な顔をしている。けれどあたしにはその言葉ですら夢物語のようで。全てを唯ちゃんの戯言だと言うには自分自身が体験してしまった非科学的な現象が邪魔をする。全てを現実だと言うには、唯ちゃんの言葉はあまりにも非現実的だった。
「でも……、よ。」
「唯ちゃん何か言った?」
何でもないと前に向き直った唯ちゃんが、もう一度、今度は顔だけで振り返る。
「何か分かったら教えてあげない事もないわ。」
彼女は手元のノートに何やら書き足していた。