Target6:腐少女
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ただいま、と玄関を上がったところで、返ってくるのは静かなリビングに佇む小さな冷蔵庫の機械音だけだ。
あたしは制服のネクタイに指をかけ、そのまま引き抜く。カッターシャツの第二ボタンを開けると、ネクタイとスクールバッグを投げ捨ててソファに雪崩れ込んだ。ぼすん、と重い身体が沈む。ふかふかのソファを全身で堪能した。
「あー……、疲れた。」
身体が重い。瞼がじわじわと降りてくる。もうすぐご飯が出来たと忍足が呼びに来る筈だから部屋着に着替えなければいけないのに。久々に感じる疲労感に対抗する術を失い、今にも睡魔に押し負けそうだ。
それにしても、どうして人を嫌うというのはこんなにも無駄にエネルギーを使うのだろう。気にしなければいいのに気が付けば視界に入っているそれを視線で追い、その一挙一動に不快感を覚えて不安で目が離せなくなる。好きの反対は無関心だとはよく言ったものだ。嫌いなのに、不快なのに。目が離せないのだから。
ソファに身体を預けたまま、ふわりふわりと思考に靄がかかる。もう瞼は持ち上がらない。
(制服、着替えないと……。)
明日も学校だ。シャワーも浴びて、あぁそうだ、明日の朝ご飯の食パン切れてる。買いに行かないと。課題もやって、洗濯も。
やらなければならない事は沢山ある。部活の時と一緒。頭で分かっていても、状況や自身の身体がスムーズに事を運ばせてくれない。
明日の朝練は元井も居るんだろうか。当たり前に居るよな。だって彼女はテニス部のマネージャーになってしまったのだから。タオルを干す場所、教えなくてもいいかな。今朝会った時にあたしがタオルを干してたんだから知っている筈、なんてのは流石に卑怯だろうか。あぁ、ダメだ。元井の事を考えているとあたしの卑怯な部分が顔を覗かせる。こんな自分は疲れるだけだ。
伏せたままの瞼の裏に、じわりと涙の膜が張る。それは流れる事はなく、目尻に溜まっただけに留まってくれたけれど。
(……寂しい。)
電気の付いていない部屋に帰って来るのも、大した食料の入っていない冷蔵庫も。跡部達に縋らないと生きていけないのも。全部全部寂しくて、悲しい。
あたしの家族は里と忍足家で。けれど誰とも一緒には住めなくて。普段は良い。寂しいなんて感じる暇もない程、充実しているから。けれど、ふとした時に感じるこの寂しさだけはいつまで経っても変わらない。
「起きて、着替えないと。」
口先ではそう言いながらも、重たい瞼も、重たい身体も持ち上げる事が出来ない。徐々に沈んでいく意識の中で、微かにインターホンが鳴った気がした。