Target1:氷帝学園男子テニス部
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向日との一件はあたしの予想とは裏腹に、時間は解決してくれていない。気まずい関係はそのままに、お互いそれぞれの学校生活を送っていた。
何とか仲直りしようと、廊下や部室で向日に声を掛けるが、あからさまにあたしを避けている向日には効果は見られない。最近では、廊下ですれ違う時にすら視線を逸らされる始末だ。
そんな数日を過ごしていて、今日。体育館への道を一人で歩く。男子の今日の体育はグラウンドらしく、芥川を引きずって宍戸は出ていった。
移動教室の為に多めの荷物を抱えて足早に向かう生徒やあたしと同じく体操服に着替えてグラウンドや体育館へ向かう生徒。広い廊下を埋める生徒の中に、久しぶりに見かけた向日の背中。あたしは何も考えずに彼に近づき、反射的に彼が逃げないように腕を掴んだ。
「……何だよ。」
向日は心底鬱陶しいと言うように振り返りあたしを睨みつける。その態度に思わず込み上げて来たのは苛つきだった。
「……何でそんな態度取られないといけないの!?この前の事は確かにあたしの不注意で申し訳なかったと思うけど、そんなに避けられる程のこと?あたしはちゃんと謝ったのに!」
思わず語気を強めて早口で畳み掛ける。そしてあたしの不満を締めくくるように吐き出した言葉に、今度は向日が声を張り上げた。
「こんな態度向日らしくない!!」
「そんなのただのお前の理想だろ!!!」
腕を掴んだまま口論を続ける。お互いの声量がそれなりのものになっていたからか、廊下に居た生徒の視線を集める事になった。だけど今はそんな事気にしていられない。
「俺らしくないってなんだよ!お前、前から俺の事何でも知ってましたみたいな態度ばっかで俺の事知ろうともしてねぇだろ!!」
「だって知ってるんだから仕方ないでしょ!!?」
まさに売り言葉に買い言葉で口論がヒートアップしていく。
確かにあたしは彼らのことを知りたいと思った事は無かった。だって、彼らの好きな食べ物も家族構成も、得意科目も。何なら好きな女の子のタイプですら。全部全部知っていて、今更彼らの何を知れば良いのか。
向日の理不尽な不満に頭にカーッと血がのぼる。さらにあたしの言い分を重ねようとしたところで、向日の声に遮られた。
「クソクソ!何でだよ!お前の知ってる俺とは違うかもしれねぇだろ!……俺はお前のこともっと知りてぇって思ったのによ!」
そう言ってあたしの手を振り払って教室へと足を向ける向日に急激に頭が冷える。そんな事、考えた事も無かった。ここに来てからもうじき一月になるけれど、その間に新しく発見した彼らの一面はあっただろうか。
あたしが知識として"知っている"のは"キャラクター"としての彼らであって、"現実に生きている"彼らではないのだ、と向日に言われて初めて気がついた。
そうだ、今までだって彼らがあたしの予想と反した言動をした事があった筈だ。初めて会った時から、それ程あたしに対して警戒心を持っていなかったのも、異世界人だと宣言したあたしを信じてくれようとしているのも。全部あたしが"知っている"彼らではきっと起こりえない事だろう。
あたしはいつか立ち去る世界の"キャラクター"だから、と彼らの事を蔑ろにしていた、最低の女だったのだ。