Target6:腐少女
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夢の中でもお腹は空くんだな、と思った瞬間に自分の腹の虫がきゅーと鳴いた。
机に伏せて今朝の事を思い出す。担任が立ち去った後の話だ。
あたしが机に顔を伏せて担任の言葉を拒否した少し後、頭上から少し鼻にかけるような声が降ってくる。その声には聞き覚えがあって、ガバリと頭を持ち上げると声の主と目が合った。
日吉若。二年。アグレッシブベースライナー。
誕生日は十二月五日。血液型はAB型。好きな言葉は、下剋上。
あの日吉。
跡部の事が大好きな、日吉。
「おい、どけ。」
日吉はあたしの事をじろりと睨んだ。その視線は思わずびくりと肩を跳ねさせてしまう程鋭く、声も低い。
「あたしの席なんだけど。」
「……は?お前、何言ってるんだ。」
其処は俺の席だ、と主張する日吉にあたしの隣の席の男子が説明する。日吉はチッと一つ舌を鳴らして廊下側の一番後ろ、あたしが本来座る筈だった席に着いた。そうそう、それで良い。
あたしはもう一度机に伏せた。
授業なんて受ける気もしない。あたしの学校とカリキュラムが全然違って付いていけないし、それに、夢の中でまで勉強なんて馬鹿馬鹿しい。
時間が進むのは遅いし、外に見える中庭には誰も来ない。跡部は日吉を訪ねて来ないし、日吉も跡部を訪ねに行かない。
理由がなくても、会いたいってだけで教室を訪れるには十分でしょう。どうして来ないの。なんて不満で頭の中はいっぱいだった。
そうして漸く四限目の授業が終わり、ふわりと欠伸を漏らしたところで日吉が動いた。急ぎ足で教室を出て行く。
(やっとだ……!)
やっぱり昼ご飯は愛する人と食べたいよね!うんうん、分かる分かる。
ドキドキと心臓が高鳴り、ニヤニヤと頬が緩んだその顔で、あたしは日吉の後を付ける。F組を出て、廊下を進み、階段の手前の教室で日吉は足を止めた。その教室は当たり前のように二年生の教室で、勿論跡部が居る筈もない。つまんない。どうして日吉は跡部と食べないんだろう。本当は食べたいと思っている筈なのに。
……あぁ、そうか。素直に誘えないんだ。日吉はツンデレだから。
それならあたしが跡部と日吉を誘って、三人揃ったところで退散すれば良い。そしたら二人きりになれるよね!そうと決まれば、あたしも何か昼食を用意してから跡部の教室に行ってみよう。食堂も跡部の教室も場所は分からないけれど、これはあたしの夢なんだし、何とかなるでしょ。とスキップ混じりに廊下を進んだ。
迷って迷って、漸く辿り着いた購買で適当にパンを買い、三年生の教室の階まで上がる。跡部が何組かなんて知らないから、一つ一つ教室を覗き跡部の姿を探した。A組からH組まで片っ端から探したが、跡部どころか他のレギュラー達まで見当たらない。もしかしたら何処か別の場所で食べているのかも。探さなきゃ、と思ったところできゅーと再度自分のお腹が鳴った。
(食べてからで、いっか。)
別に彼等と食事を共にしたい訳ではないし、どうせ彼等を探している間に彼等も食事を終えているだろう。わちゃわちゃと楽しげにしているところが見られればそれで。
「……は、またあの女?」
教室に戻って自分の席に着いた時、外に見えたのは探し求めていたテニス部の面々。此処からでは何を言っているかまでは聞き取れないし、表情も良くは見えないがそれでも今朝の女が中心になっている事は分かった。
だから!彼等の中心は跡部でなくてはいけないの。皆跡部の事が大好きで、時に互いに牽制しながらも他校に奪われそうな時には協力して跡部を守る。そんな世界でなければ。
だから、あの女は要らない。邪魔なだけ。
(そういえば、あの女、テニス部のマネージャーだって言ってたっけ。)
それならあたしもマネージャーになろう。マネージャーになれば、彼等をもっと近くで眺められるし、あの女が跡部達にベタベタするのも阻止できる。正に一石二鳥。丁度良い。
この夢をいつまで見られるのか知らないが、どうせなら悪夢よりも甘美な夢の方が目覚めも良い。