Target6:腐少女
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「お待たせ。」
跡部達に声をかけ終え、日吉と手を繋いだまま中庭に向かう。宍戸の隣に腰を下ろした。必然的に手を繋いだままの日吉もあたしの隣に腰を下ろす事になる。周囲の皆が驚きで目を見開くが、日吉はどこ吹く風だった。
「……何かあったん?」
それ、と忍足があたしの左手を指差す。と言うよりは、日吉か。
「さぁねぇ?甘えたい年頃なんじゃない?」
カラカラと笑ってそう言えば、日吉に違いますよ、と少し乱暴に手を振り払われる。それを見て再度笑い声を上げた。
「ただ、ちょっと……教室に居たくなかっただけです。」
「あぁ、それで。」
ぶすりと不貞腐れた日吉の言葉に、納得したと声を上げるのはちょただった。
まだ滝と跡部達が来ていないにも関わらず、各々弁当を広げて箸を付けている。あのちょたまでもが食事をしているのだから、宍戸が言い出したのかもしれない。
「珍しくお昼一緒に食べようって言うから何事かと思った。」
ちょたのその言葉は、ばしんと痛そうな音が搔き消した。日吉がちょたの頭を叩いた所為だ。別に照れる必要は無いだろうに。
聞けば、日吉がちょたを誘うよりも先にちょたは宍戸と昼を共にする約束をしていて、更に宍戸はいつもあたしと食べているから、それならいっそジローちゃんを含めた五人で食べようとなったところにがっくんと忍足が加わったらしい。その結果がこの大所帯だ。
「で、若は何でそんなに不機嫌なんだ?」
「……転校生の所為ですよ。」
転校生、という単語に、今朝のあの子が思い浮かんだ。見たことの無い制服を着ていたからそうだとは思っていたが、出来るなら他校生であって欲しかった。そうすれば関わらなくても済むのに。
余計な事を口にする前にパンを一口囓る。粉砂糖の振られたデニッシュ生地にたっぷりのホイップクリームとフレッシュなイチゴの挟まったそれは、軽い甘味と爽やかな酸味が絶妙なバランスだった。美味しい。
コンビニやスーパーで売られている菓子パンのホイップクリームと違い、バターが混ざっていないのだろう。ふんわりとしたクリームが舌に乗ると、直ぐに溶けていく。そして舌に残った甘味をイチゴの酸味が和らげ、最後にサクサクのデニッシュ生地が小麦の香りと共に攫っていく。初めて購買で菓子パンを買ったが、これはハマりそうだ。
んーと思わず感嘆の声を上げる。それ程までに美味しい。矢張り、嫌な事があった時には甘い物に限る。朝から荒れていた気持ちが、少しだけ軽くなった。
「あ、琹さん。クリーム付いてますよ。」
ちょたの親指があたしの口元を撫でる。クリームを拭ってくれたのだろう。彼の指先には僅かにクリームが乗っていた。それをちょたはハンカチで拭うでもなく、そのまま自身の口元に持って行き、ペロリと舌で舐めとった。
「えー……と……、ちょた……?」
「……え?え、あ!すみません!」
無意識だったのか、一気に彼の頬は赤く染まる。すみませんと何度も繰り返すちょたとは反対に、あたしは妙に冷静で。それどころか、何処か物足りなさすら覚える自分の心に首を傾げていた。