Target6:腐少女
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
じとりと細めた目を凝らして、目の前の彼女を観察する。彼女の眉間には皺が寄り、眉尻を吊り上げ、瞳孔が開いていた。名前も知らない彼女は、確かにあたしに対して怒っている。けれどあたしの身に覚えは無い。いや、あった。跡部達だ。以前の唯ちゃんの言葉を思い出す。汐原を陥れてでもテニス部を欲しがる女は山程いるわよ、と言い切った彼女の言葉が正しいのなら、目の前の彼女はきっと。
「跡部達が好きなの?」
目の前の彼女はピクピクと右頬を痙攣させて、顔を歪める。当たり前の事を聞くなとでも言うように不快感を前面に押し出した顔。当たり前のようにその顔は美しいとは言い辛い。心底あたしが気に食わないんだろう。
「何当たり前の事言ってんの?」
腕を組み、足を肩幅に広げてふんっと鼻息を漏らす彼女の視線を全身で受け止める、タオルを片手に立ち尽くすあたし。もしもこの場でどちらが勝つか賭けなさいと言われれば、十人が十人彼女に賭けるだろう。それくらいあたしの態度は間抜けだった。
「アンタはいらない。あの人達の中に、アンタは必要無い。」
「それを決めるのはキミじゃない……!」
どうして初対面の名前も事情も知らない人にそんな事を言われないといけないの。腹が立つ。
今度はあたしの頬がピクピクと痙攣しているだろう。分かった、この子とは根本的に馬が合わない。跡部達を奪おうとしてるとかそんな事は関係無く、あたしはこの子が嫌いだ。
胃がムカムカと気持ちが悪い。無意識にグッと奥歯を噛み締める。
「言いたい事言ったんならさっさと消えてよ。部活の邪魔。」
自分でも驚く程に冷たい言葉が出た。
こんな子に陥れられる程あたしは馬鹿ではないし、跡部達との関係が貧弱だとも思えない。精々好きにすれば良い。あたしは知らない。
「琹さん、まだかかりそうですか……って、すみません。お話し中だったんですね。」
「ちょた、ごめんね。もう朝練終わっちゃうよね。ちゃっちゃと干して部室に戻るから先に行ってて。」
いつまでも部室棟の裏から出てこないあたしを心配してか、ちょたが顔を覗かせる。そちらを振り向いてからにこりとそれはもう清々しいまでに綺麗な作り笑顔を浮かべた。この場の、彼女とのやりとりに彼等を巻き込みたくなかった。
あくまでも彼女を嫌っているのはあたしの勝手な感情で、彼等が彼女を選ぶと言うならそれは仕方ない。それは勿論、逆の場合も言える事。
跡部達があたしを選ぶと言って彼女を拒絶しても、それは誰の所為でもない。普通の心理だ。人間は誰だって、強制で無い限りはより好ましく思う人間と行動を共にする。友達、なんていう肩書きだってそんな心理から出来たものだろう。きっと。でも。
「ねぇ、タオル干したいからさっさと消えてくれない?授業に間に合わなくなるよ。キミも。」
あたしは自分が嫌った人間が大切な彼等に近付くのを許す程、大人じゃない。