Target1:氷帝学園男子テニス部
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汐原さんが、部室へと入って行く。その両腕にはテニスボールが満杯に入った籠が二つぶら下がっていた。普段は見ない光景。跡部さんにちらりと視線をやるが、こちらは普段と変わりは無い。何か新しい指示を受けたのではなさそうだ。
と、そこまで考えて今日の日付を思い出す。今日は備品点検の日だった。普段は自分がやっている作業だが、マネージャーが入った以上、そちらに任せるのは当たり前のような気がする。だが、最近の汐原さんには少し、疲労の色が見えていた。少しくらい休んでもらっても、誰も文句は言わないだろう。否。跡部さんが文句を言わせないだろう。
跡部さんはあの人をいたく気に入っていた。
汐原さんは何度か部室とコートを往復する。大量のボールを運ぶのですら、自分より力のない汐原さんには手間だろう。往復するあの人を視線で追うが、手伝おうにもまだ練習メニューは残っている。もう少し頑張ってください、と軽く頭を下げた。
暫くして練習メニューが終わったことを確認して部室へと向かう。普段なら自主練習の時間だが、今日は汐原さんの手伝いの為に切り上げた。毎月備品点検の日はこうしていた為、皆さん部室へ向かう俺を目で追うが、日付を思い出して納得した表情を浮かべているようだ。
「……失礼、します。」
一声かけて部室に入ると、汐原さんがこちらを見ていた。それから、忘れ物でもしたの?と声をかけてくださる。俺はこの人の、最初から俺の目的が手伝いであると微塵も考えない思考を尊敬している。
疲れている身体状況での、途方も無い単純作業。この状況で人が訪ねて来たら、誰しも手伝って欲しいという欲が先行するのではないかと自分の中で考えていたから。
続いて跡部さんの言いつけかと聞かれたので、正直に首を振る。それから籠の方を指差して今日が備品点検の日だと告げると、そこで手伝いに来たことが伝わったらしい。三度目にして漸く、彼女の口から手伝いと言う言葉が出た。
「……いえ、俺が代わります。……いつもやっていたので。」
当初の目的は手伝いだったが、自分が代わると申し出たのは、
汐原さんは、俺の言葉に目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。それから少し考えて口を開いた。
「……それは跡部に言われてたの?」
それは予想外に、俺の申し出への返答ではなかったけれど、彼女の質問に素直に首を振る。彼女はそれを受けて安堵の溜息をついた。
「いいよ、あたしがマネージャーとして入ったんだから、これはあたしの仕事。樺地は練習しておいで。」
漸く得られた彼女からの返答は、何処か予想していたものだったが、ここで譲ろうとは思わなかった。けれど、汐原さんも頑固だったらしい。彼女はその場を動かない俺の腕を掴み、強制的に部室の外へと放り出す。
「はい!これから部活が終わるまで樺地は部室立ち入り禁止ね!頑張って!!」
そう言って、後を追う間も無いほどすぐにドアに自身の身体をねじ込む。そんな彼女に俺は静かに頭を下げた。俺への気遣いに感謝を込めて。