Target6:腐少女
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まさか朝からテニスコートを使う訳にはいかない。ネットを張る時間が勿体無いから。だから朝練は基本的にランニングや素振り、筋トレと道具を使わないメニューが中心だ。跡部が素振りをしているところは見た事が無いが。
あたしは他部員の部室が空になったのを見計らって他部員の部室に入る。レギュラー用の部室には洗濯設備も水回りの設備も無いからだ。洗濯機に使用済みのタオルと洗濯洗剤を入れスイッチを押す。その間にウォータージャグを二つと、個人用のボトルを八つ。其々にスポーツドリンクの粉を入れて分量通りにドリンクを作る。それを冷蔵庫に入れたら、今度は昨日の放課後に作っておいたドリンクを籠に取り出して軽く温度を戻す。そこで丁度洗濯終了を知らせる音が鳴った。
洗濯機からタオルを取り出し、干しに行く前にドリンクを持って行かなければと籠を持ち替える。唯ちゃんが居た頃は準レギュラーには唯ちゃんがジャグを持って行っていたし、唯ちゃんが辞めて直ぐの頃はあたしが持って行っていた。けれど今は、跡部達がそれを良しとしない。だからあたしはジャグの中身を作るだけに留めていた。
跡部達は他部員の部室には入って来ないし、あたしが中で何をしているのかなんて知らない。だから、準レギュラーが交代で運ぶジャグの中身を誰が作っているのかなんて知らないだろう。それで良い。知られてしまえば、きっと止めさせられてしまうから。
正直なところ、跡部達に逆らってまで準レギュラーのドリンクやタオルを用意する義理は無い。あたしのサポートを拒否したのは彼等の方だ。あたしを邪魔だと、テニス部を辞めろと言ったのは。挙げ句の果てには、跡部の口車に乗って総当たり戦をしてまであたしを辞めさせようとしたのだ。そんな人達を許容し、サポートしようと思う程あたしは大人じゃない。ならば何故、ドリンクやタオルの準備をするのかというと、単純に唯ちゃんの事があったからだ。
"レギュラー専属"マネージャーという、昇進したのか降格したのか分からない肩書きは途轍もなく不安定で。もう一度、彼等があたしを辞めさせろと声を上げた時、その時は榊先生が決断を下すのだ。きっと。それならば、そんな声が上がらない内に、売れる媚びは売っておいた方がいい。ただ、それだけ。
あたしの作ったドリンクなんて受け取ってくれないだろうと思っていたが、存外そういう事もなく、一度だけお礼を貰った事がある。空になったウォータージャグを重石に、メモが一枚。それには一言、いつもありがとうございます、とだけ書かれていた。そのメモは、今も大事にあたしの手帳に挟んである。意味なんて、無いけど。何となく捨てられないのだ。
(奇妙な関係だよなぁ。)
辞めさせたい人と、辞めさせられたくない人。サポートにお礼を言う人と、サポートをする人。どちらも同じ人達の関係を表しているのに意味が違いすぎて笑える。けれど跡部達に何か言われない限りは、密かなサポートを止めようとは思わなかった。