Target1:氷帝学園男子テニス部
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ある程度片付けが進むと、向日以外のレギュラー陣がロッカールームに入っていく。あたしと向日の間に流れる少しだけ気まずい空気に、鳳だけが手伝うべきか悩んで足を止めた。そんな鳳に大丈夫だから先に着替えておいで、と促してボール拾いを再開させる。
「……向日も、後はやっておくから。」
背中を向けたまま向日に告げると、彼も一瞬動きを止めて何も言わないままロッカールームへと消えて行った。
お互いに、ごめんと謝った筈なのに。それなのに、こんなに気まずいのは、いいよ、と容認の言葉を得られていないからだろうか。少しだけ向日の顔を見るのが怖かった。
けれども、彼ならきっと二、三日時間を置けば元通りになるだろうと、何処か楽観視する自分がいるのも事実。だって彼は、こういう気まずい雰囲気を長引かせるのは苦手そうだ。
最後の一つを拾い上げ、籠に放る。カシャンと籠の縁に当たり、それは山を作るボールの一つになった。もう誰も引っかからないように隅へと寄せる。あとはもう、彼らが着替え終わるのを待つだけだ、と椅子に腰かけた。鞄はまだロッカーの中だから、先に帰るわけにはいかない。
「……やっちゃったな。」
思わず口をついたのは、完全なる愚痴だった。
選手をサポートするマネージャーが、選手に怪我をさせる所だったなんて。反省してもし足りない。本来なら、向日に許しを請う事自体、厚かましい行為だ。
ぎゅっと胃を絞られるような感覚。それから、ぐるぐると何かが身体を廻り心臓の当たりに止まる。向日に嫌われたかも、とそういう恐怖だった。
出会う人出会う人、全員と仲良くはなれないし、仲良くなろうとも思っていない。現に、以前あたしに話しかけてくれたクラスメイトとは仲良く出来なかった。
けれど、出来るなら向日達テニス部の面々には嫌われたくなかった。もし嫌われてしまうと、あたしの好意が一方的になってしまうから。なんとも自己中心的な考えではあるけれど、矢張り自分が好意的に思っている人には自分も好意的に思って欲しい。誰しもが当然のように持ち合わせている欲だと思う。
それに、向日は。とても昌山に似ているから。一緒に馬鹿なことが出来るのではないか、と。昌山と過ごしていたような日々を向日と過ごせるのでは、と。密かに期待していたのだ。
それも、今回の件でおじゃんになってしまいそうだけれど。
無意識に震える指先を押さえつける。
冷静に考えれば、向けられることは無いと高を括っていた怒りの感情を向けられたから感じる恐怖なのだろう。初めて親に叱られた子供が抱くような感情。けれど今のあたしには、ただ向日に嫌われたくない、とそれだけしか思いつかなくて。それでは意味のない謝罪を重ねるだけだと知っていながらも、ロッカールームから出てきた向日に再度謝罪を述べるのだった。
相変わらず、視線は彼を捉えないまま。