Target5:他校男子テニス部
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初めて彼女を見かけた時、その時から彼女は一人では無かった。休日に少し遠出をして東京のショッピングモールに買い物に来たその日、俺の目に入ったのは氷帝の鳳だった。その側には、男子と女の子が一人ずつ。彼等は名前が分からなかったし、俺も声をかける事はしなかったから特に印象には残っていなかった。
次に彼女を見かけたのは、これまた東京に出掛けた時。氷帝の制服を着た女の子と一緒に歩いていた彼女はアイスクリームを片手に笑っていた。最初は以前見かけた女の子と彼女が同じ人物だとは思っていなかったが、隣の友人だろうか、女の子に笑いかけるその顔で、あぁ、この前鳳と一緒に居た子だなと気がついた。
その次も東京。駅前で一人佇む彼女に男が寄って行った時だ。その男は鳳ではなかったし、彼女の反応も明らかに困っているもので、助けようと足を踏み出した時、一瞬彼女と目が合った。結構距離が合ったから、彼女からは俺が見えていなかったかもしれない。けれど彼女の表情は助けて、と俺に訴えていて。それなのに、彼女を助けたのは山吹中の千石だった。
その時からだ。俺の頭から彼女が離れなくなったのは。助けて、と俺に向けられた視線が頭に焼き付いて離れない。気がつけば、東京に行く度に彼女の姿を探している自分が居た。
そして、今日。
慣れた手つきで改札を抜けると宍戸達が何やら焦った表情で人混みを掻き分けていた。声をかけると、何という事はない。連れと
鳳と行動していたし、二回目に見かけた時に氷帝の制服を着ていたから氷帝のテニス部と仲が良いのではと思っていた。これはチャンスだと、探すのを手伝うと申し出ると彼等は快くスマホで今日撮ったばかりだと言う、夢の国での写真を見せてくれた。
初めて見かけた時よりも短くなった髪。シフォン生地のブラウスは爽やかな白色で、楽しそうに無邪気に笑う彼女によく似合っていた。
「名前は?」
「汐原琹。多分汐原の方はお前の事知ってるだろうから、声をかければ分かると思うぜ。」
宍戸のその言葉に、期待を胸に閉じ込めて汐原さんの姿を探すと、思いの外彼女は直ぐ近くに居た。俺の事は残念ながら知らなかったようだけど。
汐原さんが居た場所は、宍戸達と決めた合流場所からもそう遠くない。それが少し残念で、遠回りをして向かう途中、俺の言葉が聞き取れずに困る汐原さんの瞳を確認するようにじっと見つめた。うろうろと彷徨ってはいたが、状況が状況なだけに今も以前と同じように、助けてくれと瞳が訴えてくる。仰せのままに、と自分の欲を抑え込んで彼女の頬を抓った。これなら冗談で済まされる。
素っ頓狂な声を上げた汐原さんに胸を押されて距離を取るが、その頬が赤く染まっていただけで満足だった。その時は。
「琹ちゃん見つかって良かったC〜!」
宍戸達との合流場所に着いた瞬間、彼女は芥川の腕の中。力強く抱きしめる芥川に汐原さんは呻き声の一つも溢さずそれを受け止める。その顔は芥川の所為で見えない。
(ダメじゃん、俺をフリーにしちゃ。)
あの時から俺を縛るあの瞳が、今は見えない。それが不安で仕方ない。俺は汐原さんに認識されているのか、もしかしたらされていないのかもしれない。そんな事はあり得ないのに。
不安に押し潰されそうになった時、彼女はお礼を口にした。サエ、と先程までの他人行儀な呼び方ではなく、仲間に呼ばれる愛称で。
「ッ、それは狡いよ。」
それは彼女には聞こえていなかったようだけど。
向日が琹は俺達のだかんな!と俺を睨みつけて宣言する。それは誰も、汐原さん……琹ちゃんですら反論しなかった。
乗り場へと向日に手を引かれる彼女が一瞬だけ振り返る。かちりと合った瞳が何も訴えてこなかったから。あぁ、まただ。また暫く、俺は胸に広がる不安と戦わなくてはいけない。