Target5:他校男子テニス部
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あ、と慌てて口を閉じた時にはもう遅い。特に大した事のないあたしの声を拾ってしまったちょたはその場に足を止めて、あたしの言葉の続きを待っている。
氷帝を出て、彼の家とあたしの家の分かれ道まではそれ程距離が無いから、折角だから寄り道しようと提案したのはあたしの方だ。ちょたもそれに嬉しそうに同意し、ふらふらと歩きながら雑貨屋に入ったり、花屋の店先に並ぶ花を眺めながら好きな花の話をしたりと楽しい放課後を過ごしていた矢先に視界に入ったアイスクリーム屋。それはいつぞやに唯ちゃんと一緒に買い食いをした、あのアイスクリーム屋だった。
「いや、あそこのアイスクリーム美味しかったなって。……食べる?」
「そうなんですね!折角なので食べていきませんか?」
そう言って彼はあたしの手を引く。意外と食べ歩きとか好きなのだろうか。彼はカウンターの上部に表示されたメニュー表を見ながら、どれがおすすめですか、と楽しそうに聞いてくる。
「あたしが食べた事あるのはバニラだけだけど……、この前イチゴと悩んだんだよね。今日はイチゴにしようかな。」
「じゃあ、俺はバニラにします。」
先日の濃厚なミルクの味を思い出して一瞬心が揺れるが、何となく思い出したくないあの日を彷彿させるあの味を頼む気にはなれなかった。
あの後、跡部から謝罪は受けたし、揶揄う意図しか無かったことも聞いた。ちゃんと彼は全てを正しく話してくれた。だから別に、今は怒ってもいないし、杏ちゃんに嫉妬もしていない。それでも何となくぎこちないのは、単にあたしが跡部の真摯な態度に誠実な回答を出せていないからだった。
あたしは跡部一人を選べないのに跡部にはあたしだけを選んで欲しいなんて、そんな我儘を言える訳も無く、悪かったと謝罪を口にする跡部にいいよ、とそれしか返せなかった。
ここからはあの屋外テニスコートも近い。あの日と同じ道を辿れば行けないことも無い。けれど勿論、行くつもりはない。ずんと沈んだ心に少し顔を伏せた。
「……琹さん?」
「え、あ、ごめん。いくらだった?」
両手にバニラとイチゴのアイスクリームを持って立つ彼の表情は少し曇っている。先程まではあんなに輝いていたのに。
彼は眉と目尻を下げて口角を上げると、俺の奢りです、とイチゴの方をあたしの方に寄せてくれた。ありがとう、と笑顔を向けてぺろりと舌先で舐めとると、濃厚なミルクの味とそれを引き立てる甘酸っぱいイチゴの酸味が鼻から抜けていく。時々紛れ込むイチゴの果肉の触感が楽しい。
「うん、美味しい!」
「……そうですね。」
「ちょた、疲れた?どこかカフェにでも入る?」
先程から覇気の無い声色のちょたに、歩きっぱなしだったから疲れたのかと彼の顔を覗き込む。顔色は普段と変わりは無い。けれどやはり、少し悲しそうな表情をしていた。
「琹さんは、俺と居て退屈じゃないですか……?」
その顔は先程のように眉と目尻を下げて口角を上げる、悲しさを耐えて浮かべる無理矢理の笑顔のようで。その表情の意味を探して、あぁそうか、と。
「楽しいよ。……ごめんね、ちょっと嫌な事を思い出しただけなんだ。」
彼はあたしの沈んだ表情を見て勘違いしていただけなんだ。優しい、優しすぎる彼らしい。にこりと頬を上げて、もう気にしていないから、と付け加えるとちょたはまた嬉しそうに破顔した。