Target1:氷帝学園男子テニス部
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マネージャーの仕事において、ドリンクを作る、ということはまず無い。いや他校では有るのかもしれないが、氷帝には二百人を超える部員が居り、それら全てにドリンクを作るのは不可能だ。それ故に普段はドリンクとタオルは各自持参となっている。
では、あたしは何をするかというと。
目の前のボールの山に溜息が溢れる。これを数えるのか……。気が遠くなりそうだ。
本日の仕事は備品の点検及び補充である。
テニスボールの数を数えながら一定数を下回っていれば、新たに発注をしなければならない。
救急用品についてはそれ程数もないからすぐに終わったが、ボールにおいては今日の部活時間全てかけても数え終わるか微妙な所である。
それでもそれがあたしの仕事だから、とボールの入った籠と空の籠を手元に引き寄せ一つずつ移して行く。一つの籠に一定数のボールを入れ、最後に籠の数を数える作戦だ。
それにしても、あたしが居ない時はどうしていたのだろう。男子テニス部にはあたし以外のマネージャーが居ないから、誰か他の人がやっていたのだと思うけど、その人の練習時間は大丈夫だったのだろうか。折角あたしがマネージャーとして入ったのだ、何処の誰だか知らないが、今までこれに割いていた時間を練習時間に充ててくれ。是非。そう考えると、大量にあるボールを数えるという気が狂いそうな作業にも些か胸が張れるというものだ。
漸く籠を二つばかり埋めた頃、静かに部室のドアが開く。カチャリと消え入りそうな音しか立たなかったドアの方に視線をやると、入って来たのは樺地だった。
「……失礼、します。」
別に君たちの部室なのだから気にせず入って来ていいのに。ましてや、着替え途中という訳でもないのだし。そう思いながらも部室に入って来た樺地に、無意識に時計を見やる。部活終了時間になったのかと思ったがそう言うわけでもないらしい。
「忘れ物でもしたの?」
あたしの質問に樺地は、いえ、と首を横に振る。ならば跡部に何か言いつけられたか、と聞いてみるがそちらも否定された。
「……今日は、備品点検の日、なので。」
そう言って樺地は大量のボールを指差す。
「手伝ってくれるの?」
「……いえ、俺が代わります。……いつもやっていたので。」
は、まさか。まさかこの量を毎月一人で数えていたのだろうか。自分の練習だってあるのに。
況してや、樺地はレギュラーで、自主練習を欠かしていないことも知っている。それなのに、毎月この量を一人で?
「……それは跡部に言われてたの?」
いえ、と樺地は
「いいよ、あたしがマネージャーとして入ったんだから、これはあたしの仕事。樺地は練習しておいで。」
それを聞いても樺地はその場を動かない。思いの外彼は頑固らしい。けれど、あたしも頑固なのだ。
あたしは彼の元へ寄り、彼の手首を取りドアの外へ出る。必然的に樺地もそれに続く形で部室の外へ出た。
「はい!これから部活が終わるまで樺地は部室立ち入り禁止ね!頑張って!!」
そう宣言して樺地が返事をする前に自分だけ部室に身体を滑り込ませる。
急いでドアを閉めたあたしは、頭を下げた樺地に気づかなかった。