Target4:傍観少女
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退部届を提出し、何をするでもなくコートの外周を歩く。まだ空が赤みを帯びるには早い時間。帰る気にはなれなかった。
「……今の私はまだ、後ろめたい事はしてません。私の言葉を聞いてください!」
汐原の声だ、と気が付いた時にはすぐ傍の木陰に身を潜めていた。別に隠れる必要は無いのだけど、身体が勝手に動いてしまったのだから仕方がない。そのまま聞き耳を立てることにする。
「監督……そこに居る奴はまだ負けてははいない。自分からもお願いします!」
(……亮が帰ってきたのね。)
私はそっとスクールバッグから例のノートを取り出す。けれど、この出来事はノートを確認しなくてもすぐに分かった。これで亮も若もレギュラーになる。関東大会の出場メンバーが出そろうのだ。
(私だったら。)
私だったら、関東大会のオーダーに口出しするかもしれない。景吾達を勝たせる為に。けれど、もうそれをする資格は無い。私がつい先程自分の手で断ち切ってきたのだから。
もう帰ろうと木陰から顔だけを出し、汐原の方を確認する。アイツは亮に抱きしめられていた。私に背を向けているからよく分かる。汐原の背中に回された腕にはこれでもか、と強い力が込もり、汐原の首元に顔を寄せる亮の瞳には涙が滲んでいる。どうして、なんて考えなくてもすぐに分かってしまった。
きっと汐原の髪が短くなってしまったことが、そう自分がさせてしまったことが悲しいのだ。多分、と申し訳程度に付け加えるがそれが確信であることも分かっていた。
その証拠に汐原が大丈夫だと一つ笑みを溢せば、忽ちそれは周囲に伝染していく。亮も泣き止んでいた。
「……依存主。」
顔を引っ込めてノートに書かれた文字を指先でなぞる。
汐原に夢小説の説明をした時、私はアイツを逆ハー主だと言った。けれど本当は。……本当は、依存主なのでは、と思う。
今はまだ、皆から愛されているだけ。でも、汐原に対する景吾達の執着心は少し、強すぎる。以前、いつぞやの昼食時に汐原の背中を睨みつけたことがあった。それは単に慈郎や岳人に囲まれる汐原に対する嫉妬だったのだけど、その時亮に向けられた視線は、好きな子を守る為の物というには歪みすぎていて。
確信は無いが、これからどんどん彼等が汐原に執着していくのでは、と。
「……助ける義理は無いわよ。」
誰に言うでもなく口にする。
依存主はお互い依存し合っているのが前提だ。一方的だと、それは恐怖でしかない。汐原は確かに景吾達に執着している。けれどそれが狂愛を受け止められる程なのかは判断がつかない。
(私には関係ない。)
もしも汐原が自分に依存する景吾達を望まなくても、助ける義理は無い。だってアイツと私は別に友達でもなんでもないのだから。けれど、唯ちゃんと呑気に笑う汐原の顔を思い出すと意味の分からない感情が湧く。どうでもいいはずなのに。それなのに、気が付けば夢小説の話をしていた。遠まわしに忠告していた。伝わっていたのか、伝わっていないのかはどうでもいい。
私は木陰から姿を現す。亮も長太郎も景吾も……汐原も。まだそこに居た。私の姿を認めて目を見開く。構わない。
「汐原を陥れてでもテニス部を欲しがる女は山程いるわよ。……守りたかったら覚悟を決める事ね。汐原。」
あぁ、だからなんで助言なんて。
私は傍観主なのに。