Target4:傍観少女
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ロッカーの扉を閉め、掃除をしようと隣に声をかけるが返事は返って来なかった。
「あ……そうか。もう唯ちゃんは……。」
退部届を出すから、と職員室に行っている筈。もうこの部室で彼女と着替える事も、掃除をする事も無いのだ。それは少し寂しかった。何も辞めることはないのに、と彼女が入部してくる時とは真逆の感情を抱いて溜息を吐くが、まぁ教室では相変わらず声をかければ返してくれるし良しとしよう。パチンと両頬を叩いて気合を入れた。そのままいつものように、プロジェクタールームの棚から選手表を取り出し部室を出る。パラパラと捲るとここ最近のレギュラー以外の選手への書き込みは、殆ど唯ちゃんの字だった。
「どうしてですか!!」
朝練の時に作ったウォータージャグに入ったドリンクを準レギュラー陣に持って行こうとレギュラー以外の部員の部室からテニスコートを目標に足を向けると、何やら大きな声が聞こえて急いでテニスコートに走る。そこそこ重さのあるウォータージャグを持っていたからそれ程速度は出ていなかったかもしれないが、何とかテニスコートに辿り着いたあたしの視線の先には、先日跡部にあたしを辞めさせるように訴えていた部員が再度跡部に直談判しているのか、声を荒げていた。
「どうして汐原さんじゃなくて唯先輩が辞めなくちゃいけないんですか!!仕事をしていないのは、邪魔なのは汐原さんでしょう!!」
「……おい。」
今まで黙って聞いていた跡部が静かに口を開く。その声は静かであるが故にとても冷たかった。氷柱のようにキンッと鋭く鼓膜を揺らしたその声は、明らかに怒気を孕んでいた。
「錫木が辞めるのは本人の意思だ。琹は関係ねぇ。仕事もよくやってる。次に琹を邪魔だと言ってみろ。その時はレギュラーへの道は無くなったと思え。」
怒っている。あの跡部が。恐らく本気で。こんな跡部の声、聞いた事が無い。準レギュラーの彼もそうなのだろう。彼は一瞬怯んだように言葉を詰まらせる。けれど唯ちゃんの為に引く気は無いのか、彼はもう一度口を開いた。
「……氷帝は実力主義の筈です!跡部さんにそんな権限は無いでしょう?!」
「そんなに言うならレギュラー全員で相手してやるよ。レギュラー相手に
「ちょっと待って……!」
「待てよ。」
何も其処までしなくても、と彼等を止めるべく駆け寄ろうと足を踏み出すが、あたしよりも先に二人の間に割り込む影がある。ここ暫くこのコートでは見る事の無かった長髪。宍戸が二人の間に割り込んでいた。
「その試合の前に、俺にもチャンスをくれ。……汐原を辞めさせるつもりはねぇけど、俺にも試合させてくれねぇか?」
頼む、と頭を下げた宍戸に対して跡部は何も返さなかった。代わりに萩之介、と声を上げて滝と共にその場に居る全員をコートに向かうように促す。それはつまり。
「……宍戸が、戻ってくる。」
ぽつりと紡いだ言葉には、嬉しさと寂しさが入り混じっていた。