Target4:傍観少女
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「おはよ、唯ちゃん。」
「……名前、呼ばないでって言ったでしょう。」
「いや、むしろ唯ちゃんは前みたいに名前で呼んでよ。」
嫌よ、とこちらを振り向くこともしない唯ちゃんの態度に唇を尖らせながらあたしも席に着く。彼女の手元には一冊のノートが広げられていた。
「友達への手紙……?」
特に意味があって聞いた訳ではない。強いて言うなら、単なる好奇心だった。多分答えてはくれないだろうな、と思いながらも折角以前よりも距離が近くなったのだからもう少し話していたかったと、それだけだった。けれど、そんな予想とは裏腹に、唯ちゃんは先程まで話しかけても目を離さなかったノートから視線を上げこちらを向く。そして口を開いた。
「夢小説って、知ってる?」
「夢小説……?」
そう、と溜息のように口にした彼女に目が釘付けになる。以前の彼女からは考えられない程の色気に思わず眉根を寄せた。今はまだ、跡部達の前で唯ちゃんの態度は以前と変わっていないが、彼等の前で素の唯ちゃんを曝け出させるのは何としても止めなければ。そう思ってしまう程に、今の彼女は魅力的だった。
「これを見て。」
唯ちゃんは身体の向きを変え、手元に開いていたノートをそのままこちらに寄せる。いきなりのことに一瞬頭が付いていかずにじっと唯ちゃんを眺めると、ここ、と言いたげに彼女は二回指先で示した。
あたしもそちらに視線を移す。
「……逆ハー?」
「漫画や小説、ドラマの登場人物やアイドルなんかと恋愛や友情を育める創作小説の事。オリジナルキャラクターの名前を自由に変更できるの。自分の名前とかね。その中でも色々ジャンルがあるんだけど、逆ハー……逆ハーレムはアンタみたいな奴の事よ。」
つらつらとノートに書いてあることを補足しながら口にする唯ちゃんの表情はとても真剣だ。唯ちゃんの言葉はあまりよく分からないが、取り敢えず一つ頷くと彼女の指先は数行飛ばして少し下の方に移る。そこには傍観の文字があった。
「……基本的にマネージャーになったりせずに、傍観に徹する主人公ね。私はこれ。」
「え?でも唯ちゃんはマネージャーになってるんじゃ……?」
「そうね。だから……辞めるわ。マネージャー。」
声が、出なかった。ノートの文字を追う唯ちゃんの視線を無理矢理合わせようと名前を呼ぶが、彼女が顔を上げることも無い。
彼女の言っていることは、実質の敗北宣言だった。
「跡部達の事、諦めないんじゃなかったの。」
「……強がりよ。」
「……そっか。今まで、お疲れ様でした。」
短い間だったけれど。彼女がマネージャーになったことで、あたしは色々なことを学べたと思う。それは全て、あまり良いものではないけれど。今知っておかなければ後になってもっと大変なことになっていたかもしれない。そう考えて口にした言葉に、唯ちゃんは呆れたように笑った。