Target1:氷帝学園男子テニス部
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よし、と気合いを入れるような表情をした汐原さんに、大分テニス部に馴染んだものだなという感想を抱いた。初対面の時には不安気な表情をしていたのに。ただそれは、はち切れんばかりに気を張っているように見えて心配になる。思わず汐原さんの肩を叩いた。彼女は叩かれた方とは反対方向にくるりと振り向く。まるで頬を突かれるのを警戒しているようで少し笑えた。どうやら汐原さんには気兼ねなく接せる友人が居たようだ。
「大丈夫?」
それは、気を張りすぎてはいないかと聞いたつもりだった。けれど残念ながらそれは彼女に伝わらなかったらしい。首を傾げる汐原さんに、人知れず安堵の溜息を零した。きっと限界ギリギリまで来ていたのなら、問い掛けの意味にすぐ気がついた筈だから。
「まだマネージャーになって日も浅いのに、他校の面倒を見るなんて大変でしょう?」
もう一度言葉を変えて問いかける俺に汐原さんは少し考える素振りをしてから口を開く。
「不安はあるけど、参加するマネージャーはあたしだけじゃないみたいだし大丈夫だよ。」
その言葉に反射的に口角を吊り上げた。けれど、俺の胸中を占めていたのは何故か不満でしかなくて。その理由を考えても答えは見つからない。
そんな俺の頬に汐原さんの掌が当てられる。その指先は少しだけ冷たかった。
「滝のその顔、嫌い。」
そう言いながらじっと俺に視線を合わせ、まるで口角を上げた事を窘めるように軽く抓る。痛い、と感じたのでは頬ではなくて心の方だった。
そんな俺達の間に流れた沈黙を破ったのは跡部だった。汐原さんを呼び、樺地が段ボールを差し出す。それはテニス部のジャージだった。その中から取り出したジャージを汐原さんが自身の身体に当てて確認する様を見ていると、何かが引っかかる。何だ、と考えて気がついた。
「……あれ?なんで汐原さんのジャージはライン八本なの?」
俺達のものとは違う箇所。ラインの数を指摘すると、その疑問に対して跡部は汐原さんに質問で返す。ラインの意味を知っているか、と。あぁ、そうか。ラインがレギュラーの数を示しているならば、八本目ラインの意味は、きっと。成る程、跡部らしい。
汐原さんもその意味に気がついたのか、胸にジャージを抱いたまま笑みを浮かべた。それに釣られて俺達も笑う。汐原さんの表情は良くも悪くも釣られてしまう。それは跡部も同じようだった。
「滝のその顔は好きだよ。」
汐原さんのその言葉に首を傾げる。先程だって、同じ様に笑っていた筈だ。そんな俺の様子に困ったように汐原さんは言葉を続ける。
「滝だって、作った笑顔より自然な笑顔の方が好きでしょう?あたしだってそうだよ。滝には自然に笑って欲しい。」
汐原さんの言葉で先程の俺の笑みが作った物だと気がつくより先に、羞恥心が勝ってしまって思わず口元を隠し視線を逸らす。それに対して返って来たのは、跡部と汐原さんの笑い声だった。
あぁ、そうか。先程は汐原さんが大丈夫だと返して来た事が不満だったのだ。まるで俺に頼る価値は無いと言われているようで。それが、悔しかったのだ。
思わず、未だに笑い声を上げる二人に八つ当たりのように不満の色に染めた視線を投げる。自身の髪で遮られる視界に入る汐原さんの笑顔は、確かに心から浮かべているようで、先程まで抱えていた心配は杞憂に終わった。それもまた、羞恥心を煽ったものだから。
「……俺だって、汐原さんのその顔は……好きだよ。」
俯いたまま、半ば自暴自棄にそう伝えて逃げるように教室へと足を向けた。あぁ、俺の気持ちも知らないで……!