Target4:傍観少女
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ヒリヒリと痛む頬に、此処に来てよく女の子と修羅場になるなと他人事のような考えが浮かんだ。多分あたしは、裏切られたのだろう。唯ちゃんに。香水のプレゼントも、タオルやドリンクの準備をマネージャーでしようと言ったのも。彼等にあたしを嫌わせる為だったのだ。きっと。
この状況でそれが分からない程あたしは鈍くなかった。けれどどうしても唯ちゃんに対して怒りが湧いてこない。湧いて来るのはどうして、とそればかりだった。
「……どうして?悔しくないの?テニス部はアンタの一番大切な物でしょ?それが奪われたのよ?どうして笑ってられるのよ!」
唯ちゃんの手がもう一度振り上げられる。あぁ、あたしを打つその手も痛いだろうに。
「大切だよ。テニス部はあたしの一番大切な物だよ。でもね、唯ちゃんはまだあたしから奪ってないでしょ?」
そう、彼女はしきりにあたしから彼等を奪ったと言っているけれど、彼女はまだ何も奪っていないのだ。あたしは彼等に必要無いと言われた訳でもないし、あたしより唯ちゃんが良いと言われた事も無い。確かにこのままだと最悪あたしはテニス部のマネージャーを辞めなければいけないだろう。でも、それだけだ。
「マネージャーを辞めたとしても、それは彼等を奪われた事にはならなくない?」
「煩い!」
振り下ろされるその手に反射的に目を閉じる。けれどそれがあたしに振り下ろされる事は無かった。ドンっと先程より強い音があたしの背後から鳴る。唯ちゃんの手が振り下ろされたのは、あたしの背後にあるロッカーだった。
「……どうして、どうしてよ!」
「唯ちゃん。」
「知ってる?準レギュラーは皆、アンタが仕事をせずにレギュラーに色目使ってると思ってるのよ。当然よね、私がそう見えるようにしたんだもん。でもね、レギュラーは全然それを信じないの。幾ら準レギュラーが訴えても、アンタがマネージャーとして欠陥があると認めないのよ。武まで巻き込んだのにね。……本当、笑っちゃう。」
ポロポロと唯ちゃんの瞳から涙が溢れ落ちる。悔しいと、悲しいと全身で表現していた。
あたしがマネージャーになって直ぐの唯ちゃんをレギュラーに近づけないようにしていたのも災いして、他人から見ればあたしは確かに仕事をしていないように見えただろう。ジローちゃんを探しに行く事も多く、コートに居ない事が多かったのだから。そうか、それも唯ちゃんからすれば都合が良かったんだ。
彼女の目的は準レギュラーにあたしを辞めさせるよう訴えさせる事。レギュラーより母数の多い準レギュラー全員から声を上げられれば、跡部といえど何かしらの対処はしないといけない。一番手っ取り早いのは、渦中のあたしを辞めさせる事だ。それが、唯ちゃんの狙い。
今更気がついた所で、あたしにはどうしようもないけれど。
ずるりと唯ちゃんが座り込む。全身な力が抜けたようにハハハと乾いた笑い声を上げた。
「……私は主人公にはなれなかった。景吾達の心は奪えなかった。」
「そうだね、唯ちゃんはまだ、あたしから何も奪ってない。……あたしの友達としての唯ちゃんもね。」