Target4:傍観少女
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「……っ!どうしてですか!汐原さんと唯先輩、どっちがマネージャーとして優秀かなんて明らかじゃないですか!」
「琹も錫木も仕事はよくやってんだろうが。意味も無く辞めさせる事はできねぇな。」
「汐原さんの何処が仕事をしてるって言うんですか!」
あたしと唯ちゃんがいつも通り少し教室で時間を潰して部室に着いた時、珍しくレギュラーの部室の前に人影があった。一人は言わずもがな跡部で、もう一人は、あぁ合同合宿の時に仁王、柳ペアと試合をした彼だ。何やら口論をしているのが見て取れる。内容はどうやらあたし達マネージャーに関する事みたいだ。視線を隣に向けると隣に居る唯ちゃんの口角は僅かに上がっていた。
「跡部、どうしたの。」
「琹か。……別に大した事じゃねぇ。早く着替えて来い。てめぇもさっさと練習に戻れ。」
ぽんと頭を撫でられるとそれ以上の追求は出来ない。跡部と目は合わなかった。コートに向かう彼の言葉に従って部室の扉を開けると少し遅れて唯ちゃんも入ってくる。その口角はもう隠す事も無い程歪んでいた。
「……ふ、あはは!」
唯ちゃんは急に大きな声で笑い出す。ダンッと音を立てる程に強くロッカーに片手を付き、身体とロッカーの間にあたしを閉じ込める。所謂壁ドン状態。あたしは急に変わった唯ちゃんの態度に処理が追い付かずただただ戸惑うばかりだった。
「ゆ、唯ちゃん?どうしたの?」
「名前で呼ばないで。」
「……え?」
「分からない?今までのは全部演技、お芝居!アンタをテニス部から追い出す為のね!」
冷たい声。それでも楽しげに弾んでいる声。こんな唯ちゃん知らない。言っている事も分からない。
「本当、香水もタオルやドリンクの準備も!思い通りに動いてくれないんだもん、苦労したわ!でもね、これで終わり。アンタはテニス部から追い出されるのよ。アンタも聞いたでしょ?いくら景吾といえど、準レギュラー全員からの意見を丸々無視する事は出来ない。近々追い出されるわよ。良かったわね?亮が戻って来る前で。」
唯ちゃんの言葉は右から左に流される。どの言葉も唐突過ぎて部分的にしか頭に入らなかった。あたしがテニス部から追い出される?どうして。あたし、追い出されるような事なんて何もしていないのに。
唯ちゃんの悔しそうに歪む顔も、その瞳に滲む涙も、全く嬉しそうじゃないのに声色だけはとても嬉しそうでちぐはぐだ。唯ちゃんはロッカーに付いていた手を引っ込めて、ニタリと笑う。
「……これでテニス部は私の物よ。」
「嬉しい?」
正直、彼女の言っている事は微塵も理解が出来ない。マネージャーを辞めさせた所で宍戸やジローちゃんは同じクラスだし、忍足に至っては隣に住んでる。関わろうと思えば関わる事は出来る。そもそも跡部にマネージャーとして勧誘されなければ、そういう立ち位置で関わるつもりだったのだ。何も問題は無い。けれど唯ちゃんの表情はとても嬉しそうには見えなくて、それだけがただ疑問だった。
「……っ、何言ってるの?嬉しいに決まってるじゃない。私はね、景吾達に愛される為に此処に来たの。一年もかけて準備をして、漸くアンタからその立場が奪えるの!これ程嬉しい事はないわ!」
「じゃあどうして、そんなに泣きそうなの。」
ぱしんと乾いた音が鳴る。頬を打たれたと認識するには少し時間がかかった。
今まで楽しそうに弾んでいた唯ちゃんの声色が急に怒気に染まる。瞳孔が開いて、とても理性的とは言い難かった。