Target4:傍観少女
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あの日武を引き止めて伝えた言葉。それは今の所意味を成していない。
都大会が終わり、亮がレギュラーから外された。けれどその欠員の補充はまだされていない。私の知っている通り。だから今、準レギュラーを中心にサポートする私が関われるのは若だけ。それですら汐原が若に付きっきりだから私が関わることは無い。それでいい。
「唯せんぱーい!タオル下さい。」
「……ぁ、えと、はい。」
駆け寄ってくる準レギュラーの二年生に先程畳んだばかりのタオルを差し出した。態とらしく声を詰まらせて困っているように眉を下げてみせる。それに目の前の彼が私の望み通りの言葉をくれた。
「どうかしたんですか……って、あぁ汐原さんですか。」
彼はウォータージャグの置かれているコートの入り口に視線を向けて納得したように頷く。入り口の傍で若が汐原の頬を抓り、優しく微笑んでいた。本当は若はつい先程までランニングをしていたのだけど、ここだけ見れば練習をサボって汐原に構っているように見える。若は私の目の前の彼よりも大分先を走っていたから、彼からは見えていなかっただろうし、あまり良い印象は持たれないだろう。
「俺、あまり汐原さん得意じゃないんです。唯先輩が来るまで準レギュラーのサポートも汐原さんがしてくれてたんですけど、なんか日吉を贔屓してたっていうか……。唯先輩が入ってから殆どレギュラーに付きっきりで、偶に準レギュラーの方に来たと思ったら日吉ばっかりですし。仕事は全部唯先輩がしてるのに。」
「琹ちゃんは良い子だよ!きっと贔屓するつもりは無くて、単に偶々日吉くんに構ってる時に目が行ってただけなんじゃない?それにドリンクとタオルは私がやるって言った事だから……。」
汐原を非難する言葉に内心してやったりとしたり顔をするが、それを表に出す事はしない。代わりに汐原を庇う事で健気さをアピールする。最後に念押しとして、私の友達を悪く言わないで、と付け加えれば完璧だ。
「っ、俺、跡部さんに言ってみます!汐原さんを辞めさせるように!」
そう、それで良い。汐原を庇うレギュラーは七人。若と亮を入れても精々九人。でも汐原に不信感を抱く準レギュラーは十人を超えてる。これで私は自分の手を汚さなくても汐原を追い出せる。
"琹ちゃんがね、青学に転校しようかなって言っててそれを引き止めたいの。そうじゃないと貴方達に迷惑がかかってしまうから。"
あの日武を呼び止めて、相談と称して口にした言葉。この後に出来ればしたく無かったが事実を捏造して、仕事をしない汐原に困っていると。
本当はこの言葉を武から国光に伝えて欲しかった。否、国光には伝わっているのかもしれない。最終的に景吾に伝わって欲しかったのだ。そうして景吾は氷帝から離れて行こうとする汐原に不信感を抱き、汐原は橘妹をナンパする景吾に不快感を抱き、内部から瓦解してくれればと思っていた。氷帝にとって景吾は絶対的な存在。その景吾と大喧嘩すれば必然的に汐原は追い出されるだろう、と。
上手くいかない事が折り重なり、予定より大分時間を食ってしまったが、もういい。もうすぐ、此処は私の物になる。