Target4:傍観少女
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柔らかいタオルを手に、ぼんやりとコートを眺める。以前とは少しだけ違う光景。
都大会が終わった今、レギュラーの顔触れが変わっていた。
「宍戸さんの事ですか。」
ほぅ、と知らず知らずの内に口を吐いた溜息に、頭上から声が降ってくる。手にしたタオルを奪ったのは、ランニングが終わったばかりの日吉だ。
先日行われた都大会は、あたしの知っている通りの筋書きで終わった。そう、宍戸がレギュラー落ちする。そしてそれ以来、宍戸は部活に来ていない。
「宍戸の事は大して心配してないよ。」
「……では、跡部さんですか。」
日吉はあたしの横に手を伸ばし、その先にあるウォータージャグからドリンクを注ぐ。そんな彼と目が合うはずも無い。彼の考えている事は分からなかった。
宍戸の事を心配していないというのは本当だ。部活には来ていないけれど学校に来ていない訳ではないのだから、毎日顔を合わせている訳で。日に日に怪我が増えているはいるが、特に変わった様子は無い。心配する要素はどこにも無かった。それはまぁ、あたしが彼の怪我の原因を知っているというのも大きいのだろうけど。
「……日吉は、日吉だったらどうする?」
「俺は別に貴女がどうしていようと関係ありません。」
あたしが日吉以外の男をナンパしてたら、と続ける前に、間髪入れずに日吉の声が答えを出す。その答えはあたしの望んだものでは無かったけれど、何処か予想出来ていたものだった。
日吉が差し出す使用済みのタオルを受け取る。一瞬だけ触れた指先に、言うつもりの無かった言葉が口を吐く。
「……あたしが帰るって言っても……?」
言った瞬間ハッと口を噤む。帰るなんてそんな事、微塵も思っていないのに。単なる八つ当たりだった。あたしの望む答えをくれない日吉に対しての。
「ごめん、忘れて……っ?!」
「帰るんですか。」
日吉がタオルを受け取ったあたしの手首を掴む。その手にはギリギリと力が込められていて、とても痛い。思わず握り込んでいた掌が開いてタオルが地面に落ちた。
「俺達をこんな風にしておいて、帰るんですか。」
「日吉、痛い……っ!」
その声は届いているのかいないのか、日吉の力が緩む事はない。彼の瞳には確かにあたしが写っているのに、何故か目が合わない。ギラギラと目が据わっている。一体何が彼の逆鱗に触れたのか。それはたった一つしかないのだけど、日吉がここまで激昂するなんて。痛みと恐怖で視界が滲んだ。