Target4:傍観少女
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「ストリート、テニス……。」
そう口にしたのはどちらだったのだろう。
私だったかもしれないし、汐原だったかもしれない。そんな事はどうでも良かった。どうして景吾が橘妹をナンパしているの。
景吾は今、汐原に夢中なのではなかったのか。
実際学校のあらゆる場所でいちゃつく二人を目撃した。それを見て顔を顰める女子も。私の予測が正しければ、景吾も他のレギュラー達もまだ汐原の"補正"にかかっていたはず。なのにどうして。
「もしかして、景吾に補正が効いていない……?」
そんな事、あり得ない。だって、補正も無しに汐原みたいななんの取り柄も無い女があんな多人数に好かれるわけないんだから。絶対、絶対あり得ない。ありのままの汐原に景吾が惹かれているなんて。
「唯ちゃん!」
「……え?何?」
不意に名前を呼ばれて慌てて返事をする。いつの間にかコートの中に入っていた汐原に駆け寄ると、武とアキラに紹介された。違う、違う。こんなの私の計画には無かった。彼らと初めましてをするのは氷帝を手に入れた後。頬を染める彼等に、私は氷帝のマネージャーだからごめんね、と笑ってやるつもりだったのに。
「え、えと、宜しくね?桃城くんと神尾くん、でいいのかな?」
声が、震える。橘妹なんて目に入らない。
武とアキラの視線も私が自己紹介をした一瞬だけは私に向いたものの、すぐに隣にいる女の方に持っていかれた。その頬は辛うじて赤く染まってはいないものの、嬉しそうに緩んでいた。
私は知っている。主人公になれなかった女の結末を。
ここは私の世界で、汐原は私のための布石にすぎないのに。これではまるで、私の方が悪女だ。
どうして、どこで間違えたの。全て計画通りだったのに。
いや、景吾に補正が効いていないのならまだチャンスはある。
目を覚まさせるのではなく、汐原を嫌わせればいい。単純に人として嫌わせられれば。
「桃城くんと神尾くんは帰る途中だったの?」
四人の会話が途切れたのを確認して口を挟む。よし、もう声は震えていない。予想外の出会いがあったなら、それすらも利用してしまえばいい。武はあー!!と焦ったように声を上げた。
「俺、買い出しの途中だったんすよ!汐原さん……と、錫木さんも失礼します!神尾と橘妹もじゃーな!」
早口で捲し立てて彼は階段を駆け下りていく。あぁ待って、ついて行かないと。
「琹ちゃん、ごめんね。私そろそろ帰らなくちゃ。また明日!」
「え?!」
急な申告に驚きの声を上げる汐原を無視して武の背中を追う。追いつけるかな、なんて弱気になる心を叱咤した。追いつかないと、彼にうまく取り入らないといけないの。だって彼の所属する学校は、青学なのだから。
「……桃城くん!」
「ぁえ?錫木さん?」
あと少し、手を伸ばして目の前の学ランを掴む。名前を呼ぶと止まってくれた。あぁ、ここだ。私のターニングポイント。ここで失敗するわけにいかない。
「ちょっと、相談があって……。歩きながらでいいから聞いて欲しいなって。」
少し上目がちに見つめたのは故意だ。彼は美醜で人を判断しない。意外とフェミニストな節がある彼なら、女だというだけで私に手を差し出してくれる。つけ入るならそこしかない。
案の定彼は、別にイイっすけど、と言葉を濁しながら承諾してくれた。