Target4:傍観少女
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日はなんだかいつも以上に疲れてしまった。いつも通り部室のプロジェクタールームで忍足を待とうとしたが、唯ちゃんと共にそれをする気にはならなくて、外に出て部室の壁に背中を預ける。ぐいーっと指を組んで頭上に持ち上げ、背中を伸ばし、そのままずるりと力が抜けたように座り込んだ。
仕事量的には普段と変わらない。否、二人で分担出来た分負担は軽かったはず。けれど、身体に残る疲労感はマネージャーになった初日の比では無かった。
「じゃあ私は帰るね!琹ちゃんお疲れ様!」
そう言いながら帰って行った唯ちゃんはあまり疲労してはいなさそうだった。凄い。
多分あたしが人一倍体力が無いだけなのだろうけど、それでも唯ちゃんが余裕を見せる度にあたしの自尊心はガリガリと削り取られていくのだ。
少ししてカタリと軽い音を立ててあたしのすぐ横の扉が開く。開けたのはあたしが待ち焦がれていた人物だ。
「……どないしたん?」
忍足は座り込んでいるあたしに疑問を持ったのか、目線を合わせるように屈んであたしの頭をぽんぽんと撫でる。その顔は心配そうに目を細めていた。
「ううん、何でもないよ。」
その言葉に忍足は少し悲しそうに眉を顰める。いつぞやも見た、あぁそうだ、昌山の事を隠した時も忍足は同じ表情をした。
最近の彼はあまり表情を隠さなくなった、ような気がする。怒ったり笑ったり、照れたり。泣いている表情は見たことが無いが、今の彼なら見せてくれそうな、そんな気がする。それに少し嬉しくなって、あたしの先程の悩みは離散した。彼はまだ悲しそうな表情をしていたけれど、あたしのこんな汚い感情なんて話せる訳もない。
あたしはそのまますっと立ち上がってにこりと忍足に笑みを向けた。
「忍足ママがさ、今日はあたしの好きな物作ってくれるって言ってたから早く帰ろうか。」
普段ならせやな、と一つ肯定して忍足は立ち上がっていただろう。それから何も無かったように帰路に着いていただろう。けれど今日は、そうでは無かった。
忍足はいつものようにあたしの手を取りはしたけれど、その場を動かず立ち尽くす。夕陽が少し俯きがちな彼の眼鏡のレンズに反射して眩しい。
「……忍足?」
「琹ちゃん、立海に行ってから少し可笑しいで。」
どくり、心臓が跳ねた。心当たりがありすぎて。嫌な汗が額に滲む。お願い、気づかないで、何も知らないままでいて。忍足の親友になると言いながら、あたしは彼に何も伝えていない。そして彼からも、何も聞いていない。これでどうして親友になれると言えようか。
「そ、んな事……無いよ。」
あたしの手を取る彼の手に力が籠る。痛い、と感じる程に強くなったそれを、振り払う事はしない。心中に広がる嫌な予感も振り払う事は出来ない。逃げ出したいのに、彼の瞳に入らない所に行ってしまいたいのに。
「なぁ、俺そんなに頼りないん?」
「そんな事無い!」
気づけば彼の言葉を即座に否定していた。
「せやったらなんで何も話してくれへんの?」
頼り無いから、なんて事は絶対に無い。怖いのは彼に嫌われる事だ。だってこんなの狡いでしょう。あたしから離れていった親友の代わりを探しているなんて。ともすれば、忍足を代わりにする為に親友になると宣言したとも取れてしまう。そんなの嫌だ。
「……忍足の親友に、なりたいから。」
だから話さない、なんて。
顔を上げた彼の表情は、以前と同じポーカーフェイスだった。