Target4:傍観少女
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二人して軽く部室を掃除して、自前の水筒とタオルを持ってからコートに出ると、丁度アップが終わったのかレギュラー陣はコートに入り、その他部員はランニングを始めていた。今日はタイム測定からか。
「唯ちゃん、タイム測定に行こうか。」
「あ、待って!それってストップウォッチでタイム測るだけでしょ?それくらいなら教えてもらわなくても出来るから、琹ちゃんは芥川くん探して来て?」
「え……?でも。」
「大丈夫大丈夫、ほら早くしないと芥川くんの練習時間無くなっちゃうよ!」
唯ちゃんはそう言いながらあたしの背中を押す。彼女の提案は合理的だった。完璧すぎて拒否する隙も無い程に。
そうだ、彼女の提案はいつも正しい。いつも正しいから、今回も彼女に従うのが一番なんだろう。だけどここでジローちゃんを探しに行ってはいけない気がした。
「……うん、じゃあさっきの話を跡部にしてからジローちゃん探しに行くね。もしあたしが戻ってくる前にタイム測定終わったら、それぞれ彼等が申告するタイムをこのボードに書いてくれる?名前は聞けば教えてくれると思うから。」
そう言いながら、持っていたバインダーを差し出した。
少しでも彼等の居るコートに彼女を一人で近づかせたくなかったから、素直に従う前にタイミング良くラリーを終えた跡部がコートから出てきたのを確認して、寄り道をする口実を作る。
そこでジローちゃんを代わりに探して来て、と言わないのは、やっぱり唯ちゃんをジローちゃんに近づかせたくないからだった。最近の自分は酷く幼稚だ。
「うん、行ってらっしゃい!」
唯ちゃんは相変わらず無邪気に笑って駆けて行った。善意で言ってくれる彼女に一々嫉妬している自分が嫌になる。この感覚には覚えがあった。劣等感、コンプレックス。里の時と同じ。
あたしも一度深呼吸して自分で口にした通り、跡部に先程の話をする為にコートに向かう。理不尽な劣等感は、また人間関係を拗らせてしまうから。冷静に、冷静に。彼等はあたしのモノなんだから。
「跡部、ちょっといい?」
「どうした?」
かくかくしかじかと先程の唯ちゃんの提案を口にする。跡部は考えるように顎に手を当てた。そしてその手の甲に彼の汗が伝う。それを思わず目で追って、慌ててまだベンチに置いていなかった自分のタオルを差し出した。
「……悪くねぇな。」
跡部はあたしのタオルを攫って汗を拭う。その瞬間の彼の言葉は些か意味深だった。彼の仕草に一々目を奪われている事に気付いているのだろうか。度々こういう態度を取ってあたしを困らせる。けれどまぁ、悪い気はしない。
「必要なのは、タオルとボトル……あとはウォータージャグか。」
「後は粉末タイプのスポーツドリンクかな。……許可してくれるんだ。」
「チャレンジ精神は嫌いじゃねぇ。だが、琹に負担がかかるようだったら直ぐに今のシステムに戻すからな。監督にも俺から話しておく。」
跡部はぽん、と頭を撫でてコートに戻って行く。あたしもジローちゃんを探しに行かなければ。幸い、ランニングはまだ終わってはいない。