Target4:傍観少女
name input
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「三年C組の錫木です。宜しくね!」
ぺこりと一度頭を下げてにこりと笑った唯ちゃんは、今日から氷帝男子テニス部のマネージャーだ。
一部員である跡部達に入部したいと言う彼女を拒否する権限は無く、頼みの榊先生ですら特に生活態度に問題の無い唯ちゃんを拒否する理由は無いのだから、あたしも受け入れるしかない。お願いだからあたしの彼等を取らないでと思ってしまうのは狡いだろうか。唯ちゃんはとてもいい子なのに。
「琹、錫木に仕事を教えてやれ。」
「うん、分かった。一通り教えたらジローちゃん探しに行くね。それとも急ぐ?」
「いや、後でいい。」
分かった、と跡部に返して唯ちゃんを部室に連れて行った。余談だが、着替える際に一人ではない事に違和感と感動を覚えていた。
部室に入り、プロジェクタールームの棚から部誌を取り出す。それを唯ちゃんに手渡した。あたしはバインダーに挟んだ選手表を取り出す。
「基本的な仕事は、ランニングのタイム測定、怪我した時の手当て、球拾い、榊先生への報告、あとは……そう、スコア管理と部室の掃除、備品の買い出し。たまに部員からタオルの洗濯とか雑用頼まれる事があるけど、それは余裕があったら聞いてあげるくらいでいいからね。」
「ドリンクとかタオルの準備はしないの?」
「うん、他校は分からないけど、氷帝は二百人も部員が居るから準備してたら部活終わっちゃうからね。それはセルフサービス。」
あたしの言葉に唯ちゃんが考えるように顎に手を当てる。暫くしてからそれって、と声を上げた。
「チャンスじゃない?」
「チャンス?」
そう、と彼女は頷く。ペラペラと部誌を捲っていた手を止めた。
「そう、折角マネージャーが二人になったんだもん。ドリンクとかタオルとか今までサポート出来なかった事も出来るんじゃない?」
パタンと閉じた部誌を胸に抱き、あたしより少し高い身長で訴えられる。その目はキラキラと輝いていた。
確かに彼女の言う通り、マネージャーが増えたのだから今までよりも出来る事は増えただろう。だけど現実的に考えて、二百人もの部員のドリンクやタオルを二人で準備するというのは無謀だ。数十人の参加だった合同合宿の時でさえ、一人でウォータージャグを運ぶのは一苦労だった。それでも中身はキッチンスタッフが作ってくれていたし、タオルだって各自持参で、多少の予備を管理していただけだった。それですら三人でサポートしていたのだ。その何倍にもなる二百人の大人数をたった二人でそこまでサポートするのは、無謀だ。
「それは確かに出来る事は増えるかもしれないけど、ドリンクとかタオルはやっぱり無理だと思う。」
「んー……じゃあレギュラーと準レギュラーの分だけとか?」
「流石にそれは……。」
不公平だ、と口にすることは出来なかった。
そもそも氷帝はそういう所。強者が優遇され、一般人はそれを目標に進んでいく。強くなければ這い上がるチャンスすら掴めない、そんな所だ。この位の優遇は、ここにおいては贔屓という事にはならない、かもしれない。
「……後で跡部に相談してみようか。」
「うん!」
嬉しそうに笑う唯ちゃんの瞳は、キラキラと輝いていた。