Target4:傍観少女
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午前中の授業が終わって、待ちに待ったお昼の時間。チャイムが鳴るや否や教室に駆け込んできたがっくんに、手短に唯ちゃんを紹介する。それから急いで購買へと向かった。早くしないとパンが無くなってしまう。
「ただいまーって、あれ。忍足も一緒だったんだ。」
「琹ちゃんおかえりー!」
何とかパンを二つ程購入し教室に戻ると、がっくんの横に忍足が座っていた。いくらがっくんに軽く唯ちゃんを紹介したとはいえ、初対面の人達を二人きりにするのはあまり良くなかったかも、と思っていたが問題は無かったらしい。
既に唯ちゃんは彼等に溶け込んでいた。ジリジリの胸の端が焦げる。
「琹ちゃんの友達って錫木さんやったんやな。」
「クソクソ、なんだよ侑士、知り合いだったのかよ!俺だけ初めましてじゃねーか。」
「いや、別にええやろ。」
「去年同じクラスだったんだよね。」
あたしの席を囲むように座っている彼等に倣い、あたしも自分の席に着く。いつも通りいただきます、と手を合わせた。
「琹ちゃんいつもパンだよね。体に良くないよ?」
「錫木さんもっと言うてやって。琹ちゃん、俺が言うても聞かへんねん。」
「いやだって、パン好きなんだもん。それに、たまに食堂でちゃんとしたご飯食べてるよ。」
忍足とがっくんと、唯ちゃん。今日初めての組み合わせの筈なのに、そうとは思えないくらい会話がリズミカルに跳ねる。皆が皆、楽しげな笑い声を上げていた。それなのに、がっくんや忍足が唯ちゃんに笑顔を浮かべる度に、悔しいと耳元で鳴り響く。彼等はあたしのなのに、と理不尽な苛つきをばら撒いてしまいそうだった。
「あーっ、でも良かった!テニス部の人達いい人だね!……実はね、ちょっと心配だったんだ。琹ちゃんいつも疲れてたし、こき使われてるんじゃないかって。うん、そんな事しなさそうだし安心した!」
ご馳走様、と各々が食事を終えてそろそろ教室に戻ろうかという頃、唯ちゃんが口を開く。その言葉に泣きたくなった。あたしが身勝手な嫉妬を噛み締めている間に、彼女はあたしの事を心配して彼等を見極めていたのだ。流石にそんな彼女に罪悪感を抱かない程腐ってはいない。今すぐに土下座の一つでもしてしまいたかった。
「は?そんな事しねぇよ!!」
「せやなぁ、岳人は誰より琹ちゃんの事大好きやからな。琹ちゃんの嫌がる事は出来へんやろなぁ。」
「ねぇ、それだと忍足はあたしに嫌がらせ出来るって事?」
「……出来る訳ないやん。」
陰る心中を誤魔化すように彼等の話題に乗った。だからあたしはこの時の唯ちゃんの表情を知らない。だけどこの後の唯ちゃんの言葉を受け入れるには大分時間を要した。
「テニス部も琹ちゃんの事大好きだね!……ねぇ、そこで提案なんだけど、もう一人マネージャー募集する気ないかな?」
「え?」
「琹ちゃん一人で二百人?だっけ?サポートするの大変でしょ?だから私もお手伝い出来ないかなって!琹ちゃんと一緒なら私も楽しいし!」
あたし以外のマネージャー。そんな事、考えたことも無かった。確かにあたし一人で二百人のサポートは無理がある。だからどうしてもレギュラー陣中心になっている節もある。それに唯ちゃんならあたしも気楽だ、というのもよく分かる。でも、でも。彼等にはあたし以外触れて欲しく、ない。
「跡部に言ってみればいいんじゃね?」
「いや、普通顧問やろ。」
どうして、どうして。拒否してくれないの。あたしだけで十分だって、言ってくれないの。拒否したところで、彼等にそんな権限なんてないのは分かっているけれど。
「……そ、うだね。あたしが言っておくよ。」
「うん!ありがとう。」
色々と呑み込んだあたしの言葉に、綺麗な笑みを浮かべる唯ちゃんがとても憎らしかった。