Target5:他校男子テニス部
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「会わせたい子が居るんだ。」
渋々ながらも帰ってきた実家。玄関に足を伸ばした瞬間に兄貴に言われた言葉。思わず、は?と間抜けな言葉が漏れた。
おかえりも鬱陶しいほど優しい声で呼ぶ俺の名前も差し置いて、何処か誰かを慈しむような声色で。会わせたい子が居る、と。
そしてそのまま部屋で待っているよう促される。帰ってきたばかりの俺に、兄貴がこんな風に振る舞うのは珍しくて、興味はあった。
同じ東京で、聖ルドルフと青学は別に遠くはないから疲れも特にはない。普段の兄貴が過保護なだけだ。素直に自分の部屋に荷物を置いて適当に時間を潰すと、少しして玄関の開く音が聞こえた。
もうすぐか、と何故か緊張で滲む汗を手の甲で拭う。兄貴が紹介したいと思うなんてどれだけ凄いテニスプレーヤーなのかと期待していたのに。
兄貴が帰って来てから少し時間が経つが、誰かが上がって来た気配も俺を呼びに来る気配もない。痺れを切らして自ら兄貴の部屋に赴くと、兄貴のベッドに顔を埋めて此方を見る女子。その顔は緊張で強張っていて。
兄貴が紹介したいと言っていたのが女子である事と
隣で兄貴の言葉に項垂れるその人は、秀でて可愛い訳でも綺麗な訳でもないけれど、どこか愛くるしいようなそんな女子。
兄貴の突然の誘いに手土産を今からでも買って来たいと言っている辺り礼儀正しい人ではあるみたいだけど、飛び抜けて性格が良いという訳では無さそうだ。
だけどその女子を見つめる兄貴の目はどこまでも優しくて、困る。それは何処かで見た事があるような視線で。
(どこだ……?)
どこか身近で、でもちょっと遠いような、そんな人の目だった気がする。思わず二人を交互に見つめると女子がゆっくり瞬きを繰り返した後、俺の方へ目をやるものだからびくりと肩が震えた。
「普通に誘ってくれれば来るから。だから頼むから事前に教えて。……裕太、くんも巻き込んでごめんね。」
俺の呼び方に少し詰まったその声はとても疲れていた。疲労と呆れと、それでも誘えば来てくれると。声色と発せられた言葉がちぐはぐだった。
そんな人の目。その目には覚えがある。
これは兄貴の方とは違ってすぐに思い出せた。
(俺と、同じ目。)
あぁこの人も"妹"なのかと思うと、不思議と今までの疑問も消えた気がした。兄貴はきっと、この人が"妹"だから会わせたいと言ったんだろう。俺と、同じだから。
目の前のその人は、困ったように眉を下げた。
謝罪に対しての返事をしていないと気付いて慌てて口を開くと、今度は兄貴が先程の話題を蒸し返す。あぁ、忘れたかったのに!再度熱を持ち出す頬を自覚して兄貴に返すと、その人はハハと乾いた声を漏らした。
「えーと……、今更だけど氷帝で男子テニス部のマネージャーしてる汐原琹です。来月末のサバイバル合宿にも参加するから宜しくね。」
「裕太がテニスしてる事、知ってたんだ。」
「……っ、里から聞いた。」
「汐原さん。」
俺が返す前に兄貴が返事をした所為で、汐原さんの視線はすぐに兄貴の方を向く。それをどうにか此方に向けたくて、何も考えずに名前を呼んだ。
トクトクと汐原さんの瞬きに合わせて、俺の心臓が主張する。
この人の何処か疲れた瞳が、頭に焼きついて離れなかった。