Target5:他校男子テニス部
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もう行く、と真っ赤な顔で立ち上がる琹ちゃんの腕を掴んで引き留める。あぁ、この子は。
ふらりと駅前を通ったとき、ふと声が聞こえた。その声の持ち主は、まぁ、所謂ナンパというやつで、俺も周りから見るとああいう風に見えるのかと顔を顰める。
ナンパされている子は、ぱっと見普通の子。言ってしまえば、ナンパするなら何もその子を狙わなくても、とさえ思えてしまうような子だった。ちらちらと時計を見やるその姿は困っている事が明白で、ナンパに慣れていないことも明らかだ。可哀想に、と思いながらもその場を立ち去ろうと足を運ぶ。周りの人も助けようなんてしない。面倒なことには関わらないのが、一番だ。
不意に、その子はしつこく声をかける男の一言にキッと眉を吊り上げた。話し声までは聞こえない距離に居るからどんな言葉を言われたかは分からないが、鬱陶しそうに揺れていた瞳が一瞬で怒気に染まるのだから、相当なことを言われたんだろう。彼女は口を開かなかったけれど。
そこまで考えて、なんで俺が彼女を気にするのか、と首を傾げる。
この駅前には、その子よりも可愛い子なんていっぱい居るのにその子が一番目を引いた。今、ナンパしてる奴もそうなのだろうか。
「うーん、今日は占い結果、良くなかったからなぁ……。」
あまり関わりたくないんだけど、と誰に言うでもなく呟いて彼女へと近づく。分からないなら、話してみればいいと、そんな安直な考えからの行動だ。
この子からしたら、ナンパ男が入れ替わっただけなのだろうけど、多分さっきの奴らよりはマシだろう。少なくとも俺は疑問を解消しに来ただけなのだから。
思った通りに、目の前の子が溜息をつくものだから思わず、笑った。
「ね、キミの名前は?」
お礼を口にするその子に向けた笑顔が、何となしにいつものだらしないものじゃないような気がして誤魔化すように言葉を続ける。頭を下げる彼女に対して、これは脈絡が無さ過ぎたようだ。彼女は戸惑ったように小さく声を上げた。
あぁ、ダメだったか、と眉を下げると彼女は目に見えて顔を顰める。今にも泣きだしてしまいそうだ。
「汐原琹。……助けてくれて、ありがとう。」
「うんうん、琹ちゃんね!俺は千石清純。よろしく!」
一瞬で変わった俺の態度に、琹ちゃんは呆れたように肩を下げる。その仕草に、思わず息を呑んだ。
「琹ちゃんは可愛いね。俺、ラッキーだよ!」
この子は、可愛い。
不愉快だと顔を顰め、黙れと怒り、どうしようと躊躇い、俺の驚いた顔にどうだと得意気な
なんて表現したらいいんだろう。俺の語彙力では表現ができないけど、あぁなんて可哀想なんだろうと思えてしまうような、そんな感じ。
だから、目を引く。
俺は琹ちゃんの隣に腰掛けたまま、笑い声を上げる。それが、なんだか一番正しい気がした。きっと、今日は他の子をナンパしようとこの子のことが頭から離れないだろうから。
俺の揶揄いに気が付いたのだろう、顔を真っ赤にした琹ちゃんがもう行くと、腰を浮かせる。俺はその手を掴んで引き留めた。
「ね、俺のこと名前で呼んでよ。琹ちゃん!」
急にだったからか、頬を赤く染めたまま一瞬考える素ぶりを見せる。それから、呆れたような笑みを浮かべた。
「……またね、きよ。」
彼女は優しく俺の手を振り払って駆けて行く。俺は一人ベンチに腰掛けたまま、空を仰いだ。
本当は、名前で呼んでと言うつもりじゃなかったのだ。
本当はさ。
「っ、また会いたい……っ!」
って、そう言いたかった。