Target1:氷帝学園男子テニス部
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「行ってきます!」
大きな声で宣言したあたしの声に返事を返してくれるのは、広い部屋に反響した自らの声。幾分か慣れてしまったそれに少し寂しさを感じながらも鍵を掛ける。今日の朝練はミーティングらしく、いつもより少し遅めの時間に家を出た。
「おはようさん。」
ふと隣から掛けられた声に釣られるように顔を向け、挨拶を返すとそこには忍足の姿。お互い、昨日の帰り道で打ち合わせした通りの時間ぴったりに家を出たらしい。どちらも待ち時間なく学校に向かえそうだ。
「じゃあ行きますか!」
忍足は幾分か慣れた道のりをゆったりと歩くあたしの後ろを付いてくる。転入してから毎日、いつからか習慣化した光景だった。
忍足が隣に並んで歩くのではなく、半歩後ろを歩く理由を一度聞いたことがある。その時は適当に誤魔化されたからあたしの勝手な予想になるが、ただ単に照れているのだと思う。忍足ママが、侑士が誰かと登下校するとこなんて今まで見たことあらへんわ、とそう言っていたから、きっと慣れていないのだろうと。
それでも、最初は二、三歩後ろを歩いた忍足が半歩の距離で歩いてくれるようになっているから、あたし達の距離は確実に少しずつ縮まっている。それがとても嬉しかった。
「琹ちゃん。」
「……え?」
そんな事を考えていると、想像よりも後ろの方で忍足の声が上がる。いつの間にか忍足は立ち止まっていたようだ。
忍足が口にしたのは呼ばれ慣れないあたしの名前だった。反射的に振り向いて、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。驚愕の表情をしているのは明らかだった。
「ずっとそう呼びたかってん。……あかん?」
表情自体はいつもの飄々とした表情だったが、
「……いいよ、好きに呼んで!」
正面に向き直りながらのあたしの言葉に素直に礼を返す忍足は口元で笑って、あたしの隣に並んだ。そのまま、あたしの手を取る。
何気なく、本当に自然なその行動に、流石にこれは親友としては違うのではと異論を唱えようと口を開くが、忍足の長い髪からチラリと覗く耳が紅く染まっているものだから、何も言えずに唇を結んだ。あぁ、全く。あたしの気も知らないで。これは狡いだろう。
仕方ないとあたしは考える事にして、少し歩くペースを緩めた。少しくらいゆっくり歩いても間に合うだろう。そんな事をしてしまうくらいには、忍足の行動に勇気が必要だったのだと分かってしまって。そして、それを嬉しいと思ってしまって。
きっとわざとゆっくり歩いていると忍足にばれてしまっているけれど、忍足がそれに合わせてくれるから、あたしに関わろうとしてくれるから、ドキドキと煩い心臓が喜色に染まる。
「……忍足。」
「ん?」
ありがとうと笑うと、忍足は少し首を傾げて何もなかったように歩みを進める。それについて行くと氷帝学園まではほんの数分だった。